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【早大マニフェスト研究所連載/週刊 地方議員】

第19回 議員の仕事から議員定数と報酬を考える~公開セミナー開催~ (2013/02/14 早大マニフェスト研究所)

ご好評いただいている「早稲田大学マニフェスト研究所」連載。今週は各地の議会改革や独特の取り組みなどをご紹介する「週刊 地方議員」をお送りいたします。今回は、2月7日に岩手県花巻市で行われたセミナーをご紹介。議員の定数や報酬の削減が叫ばれている中、それは正しいことなのか。議員や議会は本当にいらないのか──多くの市民や地方議員が話し合いました。

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議会は「汚い」「分からない」ならば「いらない」

主催者を代表してあいさつをする佐藤邦夫奥州市議会議員 主催者を代表してあいさつをする佐藤邦夫奥州市議会議員

 地方分権が進み、地域のことは地域に住む住民が決めるということになるならば、その役割がさらに増すのが、議決機関である地方議会です。しかし、地方議会や議員に対する住民の視線は、厳しいものがあります。裏で悪いことが行われていそうで「汚い」、情報公開や住民参加が十分でないために何をやっているか「分からない」、であるならば、議会や議員なんて「いらない」。

 また、「議員は年間で数日だけ議会に出て、後は何もしないで、高い報酬をもらっている」などと言う住民もいます。これは間違った認識ですが、自分たちの活動を積極的に情報公開してこなかった議会・議員にもその責任はあります。議会改革が行われてこなかったため、議員定数・報酬の削減の声が住民世論となり、議員定数・報酬の削減に動く議会も出てきています。

 議員の定数・報酬は、どのように決められるべきなのでしょうか。この難しい問題に対して、議員自らが考える公開セミナーが2月7日、岩手県花巻市で開催されました。主催したのは、ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟に所属する、奥州市議会と花巻市議会の有志議員。住民世論に流された議員定数・報酬の削減は正しいのか。本当に、議会や議員は「いらない」のか──。そうした問題意識が、開催を決意させました。

議員の定数と報酬は議員の仕事で決まる

 セミナーには、開催地の岩手県のみならず、近隣の青森県、秋田県から60名を超える地方議員が参加。この問題に対する、議員の関心の高さを感じさせました。セミナーの第1部では、まず、早稲田大学マニフェスト研究所の中村健・次席研究員が、「議員の仕事から、定数と報酬を考える」という演題で講演しました。議会、議員のあるべき姿は何なのか、という問題提起から話を始め、議会は議論をする場であり、話し合って決める場だと説明。さらに「予算規模や事務事業数などを考えて、まじめに議論をするのであれば、時間が足りなくなるぐらい仕事はあるはず。自分たちの仕事は何なのか、と言うことを考えることから、議員定数・報酬の議論をスタートさせることが大事だ」と話しました。

 第2部では、岩手県の奥州市、北上市、花巻市、大船渡市、久慈市と、青森県三沢市の6名の市議から、それぞれの議会における議員定数・報酬の議論の経過や議会改革の取り組みが報告され、その後、会場の参加者を交えて意見交換が行われました。

 意見交換では、「住民から議員定数・報酬に対する意見を聞く手法を、本気で考えることが大切だ。住民の意見を聞く前に、議員が自分たちの仕事をしっかり住民に説明する必要がある。定数を減らすのであれば、それを補う仕組みを別途考えなければ、自治の機能が低下する。北海道福島町議会が行う『議会・議員の評価』(『週刊 地方議員』第16回参照)のように、報酬が妥当かどうか、住民が事後検証できる仕組みが必要だ」といった、前向きな意見がたくさん出されました。

議員定数・報酬を住民とともに考える

第1部で基調講演を行う早稲田大学マニフェスト研究所中村健次席研究員 第1部で基調講演を行う早稲田大学マニフェスト研究所 中村健・次席研究員

 議員定数・報酬を決定するときに、考慮しなければならない要素はいくつかあると思います。当該自治体の財政状況や住民の所得水準、類似団体との比較検討、住民世論の動向、そして何よりも議会、議員の活動状況です。

 しかし、2011年の「地方自治法」の改正で、人口によって定められていた議員定数の上限が撤廃されたことからも分かるように、議員定数・報酬には正解はないと思います。大事なことは、その地域として最適であろう議員定数・報酬の答えを導き出すプロセスです。それは、議員自らが、自分たちの仕事は何なのかを問い直すことからスタートします。そして、そうしたあるべき議会・議員の姿と現実とのギャップを埋めるために、議会改革を真剣に取り組む姿を住民に示すことです。

 これまで議会や議員は、この問題を住民と議論することから逃げていたと思います。多くの議会や議員は本音のところ、住民に納得してもらうことができないと思っていたのではないでしょうか。住民が納得してくれるかは分かりませんが、この問題から逃げずに、議員が住民と真剣に議論しなければ、議員定数・報酬引き下げの住民世論は永遠になくならないと思います。議会報告会のような場をうまく活用して、住民との意見交換を丁寧に行い、その意見を十分踏まえて、議決機関である議会が責任を持って決めることが、重要だと思います。

青森中央学院大学 経営法学部 専任講師 佐藤 淳
青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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Twitterアカウント(@wmaniken)
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