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【早大マニフェスト研究所連載/週刊 地方議員】

第18回 議員は何を根拠に審議しているのか?~政策判断の視点を養え~ (2013/01/31 早大マニフェスト研究所)

 政治山では、ローカル・マニフェストによって地域から政治を変える活動を行っている「早稲田大学マニフェスト研究所」(所長:北川正恭早大大学院教授)と連携し、「議会改革」と「マニフェスト」をテーマに連載をスタートしました。「議会改革」をテーマにした「週刊 地方議員」の連載では、研究所の調査結果をもとにして議会改革の最新事例を紹介しながら、議会本来の役割について考えていきます。第18回は「議員は何を根拠に審議しているのか?~政策判断の視点を養え~」をお届けします。

自治体の事業は、どのように決められているのか

 地方自治体における3月定例議会は、とても重要な議会と言えます。それは、次年度(本年4月1日~翌年3月31日まで)の事業計画や、その予算を審議して決定する議会となるからです。自治体の規模によって1年間の事業数は異なりますが、1つの自治体では通常、2,000~4,000程度の事業が実施されています。

 これだけの数をすべて見ていくので、議会の仕事は大変です。ですから、議員が各委員会に分かれ、委員会が担当部署の事業を細かくチェックしていきます。しかし、委員会に分類するとは言え、1つの委員会がチェックする事業数は膨大な量です。膨大な資料を突き合わせ、短期間でチェックしなければならず、議員には短時間での判断が求められます。このとき、明確な判断基準や、事業の根拠を裏付けるデータが必要となりますが、果たして、住民に説明できる判断基準が設けられたり、分析データに基づいて審議されたりしているのでしょうか。

 多くの自治体や事業をチェックする際に参考としている判断基準の多くは、「従来通り」「過去の実績」「類似団体との比較」「費用対効果」など。しかし、中には「首長のひと言で決まってしまう」「多数会派が数で押し切ってしまう」など、議会が役所職員から説明を受け、十分なデータに基づいてきちんと議論されないまま決定されている、というケースも少なくありません。さらに、各委員会で審議するときの大きな問題は、担当部署の説明は受けることができても、関連した別部署の説明を受けて判断することが困難なことです。

 環境政策について審議したとしましょう。仮に環境政策の担当部署が「環境対策課」だったとすれば、環境対策課の説明は受けることができます。しかし「環境」と言っても、さまざまな部署に関連しています。例えば、環境教育は教育委員会、ゴミ問題は清掃事業、庁舎内の節電などは総務課といった具合です。1つの事業が効果的に行われるかを判断する場合には、役所の組織を横断したチェックが必要なケースが多くあるのですが、こうした各部署の情報をトータルに分析し、適切な判断をすることが、果たしてできているのでしょうか。

データに基づく政策判断

GISを積極的に活用すれば、各課の連携がしやすくなるメリットがある(国土交通省のホームページより) GISを積極的に活用すれば、各課の連携がしやすくなるメリットがある(国土交通省のホームページより)

 こうした手間を簡単にするのがIT(情報技術)です。

 住民に「この事業は、このようにして決定した」と説明する際に説得力があるのは、客観的なデータに基づく分析により導き出した回答が必要です。当研究所ではそのデータ分析に有効なツールの1つとして、「GIS(Geographic Information System=地理情報システム)」を研究しています。これは、地理的位置を手がかりに位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術です。すでに全国のほとんどの自治体でGISや類似のシステムが導入されていますが、本来の活用にはほど遠い現状にあります。おそらく税務課などでは、固定資産税の評価などに用いられているのではないでしょうか。また、一部の役所ではGISを使い始めたところもありますが、本来の機能からみれば、ほんの一部分を使っているに過ぎません。

 GISを使うと、こういうことができます。例えば「防犯灯をどこへ設置すればよいか」を判断するとき、防犯課が持っている不審者出没情報、商工課が持っている24時間営業のコンビニエンスストアの場所、教育委員会が持っている「子ども見守り隊」のパトロールルート、福祉課が持っている「子ども駆け込みSOSの家」などのデータを、1つの地図上へ重ねていきます。そうすると、手薄な地域と安全な地域かひと目でわかります。しかも、この地図情報は行政の担当者同士で共有することができます。関係者が一同に見ることができるので、合意形成を得やすくなります。

 このことから分かるように、各課が持っている断片的な情報を地図上に重ねることで、効果的な事業実施が可能になるわけです。役所は各課が持っている情報を組み合わせれば、より効果的・戦略的に事業を実施することができ、しかも適切に予算執行ができるだけでなく、「たて割り組織」で悩んでいるところに「横ぐし」を入れて、組織横断的な議論が可能になるメリットがあるのです。

 早稲田大学マニフェスト研究所では、このGISを活用した事例をもとに、政策判断の視点を学ぶ研修会を開催いたします。関心のある方はこちら(早稲田大学マニフェスト研究所HP)よりお申し込みください。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
関連リンク
早稲田大学マニフェスト研究所ホームページ
Twitterアカウント(@wmaniken)
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