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【地方議員座談会「当選1回議員」/私たちの街の現状と抱えている課題】

<弘前市の課題>若者が地域活動に参加する仕組みづくり(2012/06/29 弘前市議会議員 菊池勲)

 政治山では、5月24日に行った当選1回の新人議員座談会の議論を受け、自治体ごとの現状と課題を比較するために、参加した5議員から「私たちの街の紹介」と題したコラムを寄稿してもらった。それぞれが所属する自治体の「人口規模」「予算規模、財政状況」「高齢化率」「これからの人口の推移」「現在、抱えている課題」「若年層の課題」を提示してもらい、課題に対して議員・議会・自治体が取り組んでいることを紹介していただいた。第3回は、弘前市議会議員の菊池勲氏の記事をお届けする。

[関連ページ]【地方議員座談会「当選1回議員」】新人議員たちは、何を考え、どう行動しているのか

◇        ◇        ◇

弘前城公園の桜祭りでのワンシーン 弘前城公園の桜祭りでのワンシーン

「ねぷたの小屋建てるの手伝ってけ!」
「今年ももうそんな季節だっけ??」
「じゃわめぐなあ。」

 夏を目前に控える6月。青森県弘前市ではこんな会話があちこちで聞こえてきます。これは夏に開催される「弘前ねぷた祭り」の準備の会話なのです。

 8月第1週に開催される「弘前ねぷた祭り」は、青森県の南西部にある人口約18万3,000人のこの街で毎年、160万人にのぼる観光客の方々に楽しまれています。弘前ねぷたの最大の特徴は、基本的には町会単位でねぷたを制作するところです。準備は大体6月下旬から始まり、1カ月半かけて各団体が制作します。市内約80カ所に小屋が建てられ、さまざまなねぷた好きの方々から厚志を頂いて、町会の方々が一緒になって制作するというのが特徴です。

 期間中の夜、町会の女性陣が腕によりをかけて差し入れを作ってきてくださったり、学校にうまく馴染めない茶髪の子供が「太鼓をたたきたい」と突然小屋を訪ねてきて、いつの間にか髪を黒くして背筋が伸び、学校にも馴染むようになったり。さまざまな人間ドラマが毎年展開されます。

 こういう光景を見るたびに「古き良き日本の文化」が残っているのが私の住む弘前だと思うわけです。

弘前市ってどんな街??

岩木山と一面に広がるりんご畑 岩木山と一面に広がるりんご畑

 「津軽富士」と親しまれている岩木山(標高1,625m)の麓に位置する弘前市は、1889年4月1日に全国31市の1つとして県下で最初の市制を施行しました。

 人口は、1995年の19万4,197人をピークに減少を続け、現在は18万3,534人です。産業別就業人口は、第一次産業従事者が15.5%、第二次産業従事者は16.7%、第三次産業従事者は67.8%となっています。第一次産業従事者が15%以上と、15万人以上の街としては珍しい割合ですが、その理由は、弘前が日本一の生産量を誇る「りんごの街」だからです。

自立した地域社会を目指そう!

 弘前の最大の問題の1つは、地域の結束力が弱くなっていることです。いくつか原因がありますが、大きく分けると「急速に進む少子高齢化」と「若者を取り巻く環境の大きな変化」があります。

 将来推計人口(表1)を見ると、23年後の2035年には人口が実に4万人減少し、約14万人となると予想されています。一方、80歳以上の人口は、2035年には約2万3,000人と、約20年間で約1万人の増加が予想されています。

 また、60歳から70歳の世代は2010年の約4万8,000人から2025年をピークに減少に転じ、2035年には約4万人になると言われています。現在、60歳から70歳の世代が中心となって地域の根幹を支えている300以上の町会や100分団にのぼる消防団、ボランティア活動などは、この世代が減少することにより、急激に停滞することが懸念されます。

 また、全国的に若者を取り巻く環境も大きく変化している中で、弘前も例外ではありません。郊外型店舗の進出が進み、地域社会だけで完結していた生活スタイルに変化が生じています。さらにIT社会の発展などにより、地域活動の大切さや地域の資源、お祭りの価値など「良き伝統文化」を伝える機会がほとんどなくなってしまいました。

 目指す方向性として、少子高齢化対策と経済的支援も大切ですが、それ以上に疎遠になりつつある地域の連携という根本的部分をどうするかを考えなくてはいけません。表2の自治体の予算を見てもわかるように、福祉に関連する民生費がすでに37.4%と大きな割合を占めており、財源に余裕があるわけではありません。今考えなければいけないのは、行政の財政支援が少なくて済むような「自立した地域社会」をいかにつくるかです。

若い世代を地域活動に巻き込む仕組みつくりを!

 「良き伝統文化」を次の時代に伝えるにはどうすればいいか。それは、若者のよさを生かした仕組みに変え、「祭り」「スポーツ」「ボランティア」「町会活動」など、それぞれの価値観にあった受け皿をつくっていくことに1つの解決方法があるのではないかと考えています。

 具体的な取り組みの1つが、先日の座談会で紹介した弘前市民球団「弘前アレッズ」という野球チーム。これは野球をするだけではなく、地域貢献事業、少年野球教室を行うということがチーム方針に盛り込まれています。野球というツールを使って、社会貢献することの大切さを学べる場をつくることも目的の1つです。この団体活動を通して若者の地域貢献への価値を再構成しようと考えています。

 また、私のいる町会は、役員の平均年齢が65歳以上で、310世帯が加入しています。いま率先して進めていることがあります。それは仕事の効率化と、同世代の若者を町会活動に巻き込むことです。同世代に協力を仰ぎながら、ネット環境を整備し、会議を減らし、企画の改善を行っています。若い世代の技術と年配の方々の経験を融合させて、町会を改善させながら地域を再構築させようと思っています。

 これら具体的な事例を進めていく中で、若者が地域活動に参加しやすい環境整備を進めています。急速に進む少子高齢化社会の対策は「待ったなし」の状況であり、今後は、行政面でも若者が地域活動に参加しやすい仕組みづくりが必要不可欠だと思っています。冒頭にも紹介したような弘前ならではの「良き伝統文化」を次の時代にも伝えていくために、民間・行政も含め、これまでの構造や仕組みを今の時代に対応したものに改めながら、若い世代が活躍できる場をつくることが急務であると考えています。

(次回は神奈川県横浜市議の草間剛氏による「私たちの街の紹介」です)

弘前市議会議員 菊池勲
菊池 勲(きくち・いさお)
1981年、青森県弘前市生まれ。2006年、東北大学理学部卒業。「雇用と教育」をテーマに、松下政経塾に27期生として入塾。2009年、東京で人材派遣会社経営を経て、2011年、弘前市議選に挑戦して初当選。大学在学中に学習塾と学習支援に関わったことから教育のあり方と税金の使われ方に問題意識を持つ。東京で人材派遣会社経営を経験し、東北出身の若者が東京で日雇いに従事する現実に直面。現在は、弘前で若者の社会参加をすすめる仕組みを模索中。
HP:菊池勲の一路白頭に至る。

【表1】弘前市の将来推計人口の推移 (単位:人数は人、割合は%) [記事へ戻る]

  2010年 2015年 2025年 2035年
人数 割合 人数 割合 人数 割合 人数 割合
総人口(割合は
2010年=100)
182,970 100 175,922 96.1 158,920 86.9 140,209 76.7
年少人口 21,515 11.8 18,261 10.4 14,406 9.1 11,976 8.6
生産年齢人口 114,792 62.7 105,948 60.2 89,943 56.6 75,471 53.8
老年人口 46,663 25.5 51,713 29.4 54,572 34.3 52,761 37.6

出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の市区町村別将来推計人口(平成20年12月推計)」

【表2】弘前市の平成24年度一般会計予算(項目別) [記事へ戻る]

平成24年度当初予算額
(千円)
構成比(%)
議会費 522,328 0.7
総務費 5,575,247 7.5
民生費 27,906,677 37.4
衛生費 6,541,209 8.8
労働費 500,903 0.7
農林水産業費 1,300,379 1.8
商工費 3,663,839 4.9
土木費 8,294,111 11.1
消防費 2,316,960 3.1
教育費 8,733,015 11.7
災害復旧費 2,000 0.0
公債費 9,123,332 12.2
予備費 50,000 0.1
歳出合計 7,453,000 100.0

(出典:平成24年度予算の概要)pdfファイル

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