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拠点第1号は遠野市―ポスト資本主義の新社会構築を目指す!(上) (2017/1/13 日本財団)

地方に拠点を作る林篤志さん
日本財団SIFで優秀賞を受賞

日本民俗学の父・柳田國男の「遠野物語」で知られる岩手県遠野市にネクスト・コモンズ・ラボ代表の林篤志さん(31)らが立ち上げた新しい拠点があります。新雪が降った12月中旬、市内の中心部にある事務所兼カフェの「コモンズ・カフェ」を訪ねました。9月末開催の日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム(SIF)で特別ソーシャルイノベーター優秀賞を受賞した林さんに、「ポスト資本主義の新しい社会システム構築プロジェクト」の目的やその背景を聞きました。

会議の休憩中にディレクターらが林代表(右から3人目)を囲んで記念撮影

会議の休憩中にディレクターらが林代表(右から3人目)を囲んで記念撮影

――日本財団ソーシャルイノベーションフォーラムで10組のイノベーターの中から、特別イノベーター優秀賞に選ばれた時はどんな気持ちでしたか?

日本の将来をつくるという今回の大きな文脈の中で、僕たちのプロジェクトはまさしく大きな文脈だったので、そこを評価していただけるなら選んでもらえると思っていました。

コモンズ・カフェでインタビューに答える林代表

コモンズ・カフェでインタビューに答える林代表

「壮大な計画」と評価

――選考理由の中で、小宮山宏・選考委員長(元東大総長)が「ポスト資本主義となる新しい社会のビジョンを持つ人たちでコミュニティを作ろうという壮大な計画である」と述べていましたが、この点についてはどう思いますか?

小宮山さんがそう評価していることは聞いていたので、非常に喜ばしいなと思いました。それに、ポスト資本主義社会へのアプローチを常にアップデートしているので、ぼやっとしているのが輪郭を出して見られるようになってきたなと思っています。今の時点でも7割くらいは自分の中で理解しているが、残りの3割は僕も含めて誰も分からない、つまり、やってみないとわからないものだと思っています。

――優秀賞受賞について仲間の反応はどうでしたか?

たぶん、僕と同じような感覚で、選んでもらえると思っていたのではないでしょうか。今後は、(日本財団の)大きなサポートを受けるので、スピード感は出ると思います。

――優秀賞受賞の効果については、いかがですか?

優秀賞受賞で社会的な評価をいただいたので、お世話になっている自治体もそうだし、チームのメンバーでも「これって雲をつかむようなことだ」と思っている人でも、社会的には期待されていると第三者に評価されたのは非常に大きいと思います。

「早く社会に出て働きたかった」

――中学卒業後、国立豊田工業高等専門学校情報工学科に進学しましたが、なぜそこを選んだのですか?

とにかく早く社会に出て、早く働きたいと思ったから。高専は5年間なので、20歳で卒業できるし、かなり専門分野に特化して実践的な技術を前倒しして学んでいけるからです。情報工学科を選んだのは、当時ITブームで、今後社会で必要な分野と思ったからです。

――高専を卒業してIT企業にシステム・エンジニアとして入社しましたが、2年で退職したのはなぜですか?

僕の部署は、世の中で止まってはいけないと言われているようなシステムを保守する部署で、仕事はすごく楽しかったが、周りにはコンピューターの大好きな先輩や同僚がたくさんいて「自分はもっと違うことで能力を発揮できるかも知れない」と思いました。具体的なプランがあったわけではなく、2年で区切りをつけて辞めました。

地方のすばらしさを実感

――それから、どうしましたか?

市井のスペシャリストを招いて学ぶ「自由大学」をビジネスパートナーと一緒に都内で開校しました。自由大学の後は、人間の根源的な欲求である食を核に社会を変えようと、地方を回って在来種・固定種と言われる種を見つけ、シードバンク・プロジェクトを始めました。そうやって全国各地を回っていて、「日本にはこんなすばらしい田舎があるのか」と気づきました。人口数千人でも江戸時代の古民家などが残っているのを実際に見たのは初めてだったので、「こんなおもしろいフィールドを何でみんなはやらないのか」と思いました。だが、ひとりではできないので東京のスペシャリストを呼んできて地方とつなぐ「受け皿」をやりたい。そうやって、教えたり学んだりしながら何か、新しいものを作り出せないかと考えました。あちこちの自治体に当たった結果、東日本大震災が起きた2011年、ようやく高知県の土佐山を紹介してもらい、「NPO法人 土佐山アカデミー」を創業することができました。

「社会を変えるのではなく、新しい社会をつくりたい」

――では、やりたいこととは何ですか?

僕がやりたいのは、可能性のあるフィールドを使って自分たちで考え、自分たちで誰でも自由になれる社会を作っていくことです。とはいえ、外から入ってきて好き放題やれるとは思っていない。自分の目的を達成するためには、そこにあるものを活かし、当事者ともウインウインな関係でなくてはいけない。それに、多くの人が自由になるにはインフラも変えないといけない。

しかし、土佐山で5年間活動し、30組が移住し、延べ約6,500人が見学に来てくれましたが、世の中は全然変わらない。今の日本で政治家になるという方法もあるが、政治に興味はないし、政党を作り国会で1、2議席とっても世の中は変わらない。自分たちの理想の社会を作る小さな仕組みでもいいから、新しくシステムから作ろうと考えています。つまり、社会を変えるのではなく、新しい社会を作っていきたいのです。

コモンズ・カフェが入っている旧時計店の建物

コモンズ・カフェが入っている旧時計店の建物

――ネクスト・コモンズ・ラボの第1号拠点に遠野市を選んだ理由は何ですか?

たまたま僕が結婚して2015年7月、遠野に引っ越したからです。妻の敦子が「東京でなくても良いね」と言うので、お互いに知っていた遠野に決めたんです。僕はここで農業をしている伊勢崎克彦さんを良く知っていたので「この人たちと一緒にやれば、おもしろいことができるかな」と思いました。

「誰と何を仕掛けるかが重要」

――遠野で拠点を立ち上げてから約20人が移住してきて仲間に加わっているそうですが、彼らはどこから来ているのですか?

全部、都会から来ています。彼らは都会に幻滅したから地方に来たわけではなく、積極的な理由で来ているのです。今の人たちは潜在的に新しい家族みたいなものを求めている。100年以上前は村がホームであり、戦後は企業がホームみたいなものだったが、今は両方ともない。会社も将来を保障してくれないし、国もやばい感じですね。しかも家族と言っても核家族で、かなり不安定な感じです。会社の同僚と話をしようと思っても、みなバラバラで、未来について共感できる話なんてできない。では、どうしたらいいか。やはり一人では生きていけないので、一定の価値観が共有できる、ビジネスパートナーと家族の中間の仲間が必要なのです。

彼らがなぜ地方を目指すのかというと、ダイナミックなことができるチャンス、機会です。日本はどこへ行っても良い場所がある。基本的には、誰と何を仕掛けるかが重要です。そこにどんな資源があって、どんなプレイヤーがいるか、どんなことができるかを見せるか、が人を集めるポイントです。

カッパが出没するとの言い伝えのある常堅寺のカッパ淵

カッパが出没するとの言い伝えのある常堅寺のカッパ淵

――林さんが外部の人から信用されている理由は何だと思いますか?

僕と同じように、今の社会に対して不満があるからでしょう。僕という人間を信用できるかどうかを判断していたら来られないでしょう。僕がやっているのはホラを吹くことだけど、本当のホラではない。そこに、夢があって具体的で、ポジティブでないとダメです。今まで「ポスト資本主義」のような世界に共感して活動してきた人はたくさんいると思いますが「ポスト資本主義社会をつくる」とは言ってこなかった。そろそろ私たちがそういうことを言ってもいいのではないか。未来に可能性を感じられる人に来てもらっています。

「数年以内に拠点100カ所作りたい」

――最後に、今後の抱負を。

遠野で起業家を育成し、クラフトビール製造、里山経済、産前産後ケアなど10のプロジェクトを軌道に乗せると共に、こうした拠点を2020年までに全国で100カ所つくることです。すでに、遠野以外で奈良県奥大和地域、石川県加賀市、宮城県南三陸町など4カ所が決まっていて、来年春までに立ち上げる予定です。各地のネクスト・コモンズ・ラボを軌道に載せた時点で、地域同士のネットワークをどうつなげていくか、ですね。

(続く)

次回は、ディレクターや地元の行政責任者らのインタビューを掲載します。
続き:「よそ者」が地域を活性化―ポスト資本主義の新社会構築を目指す!(下)

◇        ◇

【メモ】遠野市
岩手県南東部の内陸部にある。中央部は北上山地最大の盆地である遠野盆地となっている。このため冬期にはマイナス20度近くまで下がることも。人口は28,328人(12月1日現在)。江戸時代には長い間、遠野南部氏の城下町として存続した。柳田國男の『遠野物語』の基となった町で、河童や座敷童子などの民話やそれに絡んだ観光スポットで知られている。

●ネクスト・コモンズ・ラボ ウェブサイト
●日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016 ウェブサイト

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