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学校になじめない子どもはどこへ―インタビュー特集 「ROCKET」(上) (2016/6/28 日本財団)

子どもを追い詰め、親も追い詰められる
学校問題が一番の悩み 瀬戸際の保護者

日本財団と東京大学先端科学技術研究所が共同で進めている「異才発掘プロジェクトROCKET」は6月18、19両日、長崎市伊王島町で「親子セミナー」を開催しました。2014年に始めたROCKETは、突出した能力はあるものの、現状の教育環境になじめない小・中学生を選抜し、継続的な学習保障や生活支援の提供を行う事業です。16年からは新しい試みとして、選抜した児童・生徒だけではなく、より多くのユニークな親子を支援するための「保護者セミナー」と「親子セミナー」を開始し、今回はその「親子セミナー」を初開催しました。九州各県から18組の泊り込み親子を含め計90人余りの保護者と子どもたちが参加しました。何人かのお母さんが苦しい経験や悩み、要望、周りの実状などを話してくれましたので(上)(下)2回に分けて紹介します。

親向けプログラム「ユニークな子どもを理解する」の会場風景。奥はディレクター中邑賢龍・東大先端科学技術研究所教授(右)と保護者担当のコーディネーター赤松裕美さん

親向けプログラム「ユニークな子どもを理解する」の会場風景。奥はディレクター中邑賢龍・東大先端科学技術研究所教授(右)と保護者担当のコーディネーター赤松裕美さん

お母さんの声

▽学校問題
私は学習塾を開いているのですけど、別のお母さまたちがよくおっしゃるのが、特異な能力を伸ばしていこうという観点でいくら見ようとしても、学校に行った時にその能力が通用しなくて、それが主要5教科の中に入っていなかったら、認められることもまずなくて自信を喪失していく。小学校6年間と中学校3年間の義務教育と高校の3年間、この12年間を自信喪失したまま過ごすことになってしまう。学校からドロップアウトした時に、今度、行く先がないとなった時に、世の中にはいろんな考え方は出回ってはいるけれども、実際にそれが得られるかというと、そういう教育機会につなげることができなかったりして結局、学校に何とか行かせようと子どもを追い詰め、親も追い詰められる。というのが今、身近で一番起こっている実情です。

鷹匠石橋美里さんの話をしっかり聞く子どもたち

鷹匠石橋美里さんの話をしっかり聞く子どもたち

▽学びの機会を増やす
多様な子がたくさんいて、それを認めることは、ここ1、2年前よりも、すごく浸透してきたような感じはするんですが、じゃ学びの機会があるかというと「ない」。この学びの機会をどうにかしたい、というのが、学校に行かないという選択肢を採った場合に出てくる次の課題です。フリースクールに行っても自分がやりたいことにつながらない。やっぱり、もんもんとしてしまう。いろんな考え方はあるけれども現実問題はそうはならない、と本当に毎日のようにお母さんはおっしゃっています。だからその学びの機会を増やすことが、まず必要とされています。それを塾がしてもいいし、どこかフリースクールがしてもいい。とにかくいろんな所が、そういう受け入れ態勢をとって多様な子どもたちを受け入れる。これをやっていかないといけないと思っています。

おとなしいフクロウを、そっとなでてみる経験もしました

おとなしいフクロウを、そっとなでてみる経験もしました

▽瀬戸際の悩み
不登校になったお子さん、なりかけているお子さんの親の悩みが一番深い。行かないと決めてしまったら、そこからまた新しい道を模索することになるのですが、行くか行かないか、どうしたらいいか分からない、というときに、勉強が遅れるのが怖いから、なんとか学校には行かせたい。いろんな板挟みになって、そういう時に、うちみたいな塾に通って週1、2回来ても、なかなか全ての底上げはできないので、そういうところを保障できる場があったらいいなというのが、瀬戸際にいるお母さん方の一番の悩みかな、と思います。

文字を書くのが苦手とか、黒板を写すのが苦手、というようなところは、カメラで撮ったり、パソコンをさせたりという話をすると、お母さん方もそのようにされているので、この悩みは案外すぐ解決できるのですが、やっぱり学校の問題が関わってきた時にどうしたらいいのか分からないと親子で疲弊していくんです。

あんまり大人がぴりぴりしていたら、かえって子どもによくないし、自立の道をふさぐ恐れもある。本当に一番大切なのは、親ばかりがいろいろ勉強して調べるのではなくて、みんなが、こういう子もいるんだ、別に障害というくくりで見るのではなくて、得手、不得手はみんなあるよね、と。そういう子なんだよね、というように見てくれるだけで、ぜんぜん違うと思うのです。「発達障害」という言葉は何とかしてほしいと思います。

異才発掘プロジェクトROCKET

突出した能力はあるものの、現状の教育環境になじめていない小・中学生を選抜し、継続的な学習保障や生活のサポートを提供するプログラムで、14年12月に開校しました。第1期は601人の応募者から15人、第2期は536人の中から中学3年から小学5年までの13人(全員男子)を選び、第3期は6月半ばから応募者の募集が始まります。1月に鹿児島で「保護者セミナー」を初開催しました。

今回の親子セミナーは、参加親子に別々のプログラムを用意し、子どもたちには、興味のある専門的な視点を学び仲間をつくる糸口を見つけてもらう場を、保護者には、討議などを交えた講習会や親同士の交流などを通して、子育てへの新たな視点を持ち帰ってもらう機会を、それぞれ提供することを狙いとしました。佐賀県武雄市の鷹匠・石橋美里さんをゲスト講演者として迎え、子どもたちは鷹の実技を通して命の大切さを学びました。

【注】国の動き

▽政府方針
安倍晋三首相は1月の施政方針演説で「いじめや発達障害などさまざまな事情で不登校となっている子どもたちも、自信を持って学んでいける環境を整えます。フリースクールの子どもたちへの支援に初めて踏み込みます。子どもたち一人一人の個性を大切にする教育再生を進めてまいります」と述べました。

▽個性大切にする教育
政府の教育再生実行会議(座長・鎌田薫早稲田大総長)は5月、子どもの個性や能力に応じた教育の必要性を強調した内容の提言(第9次)を安倍首相に提出しました。発達障害の早期発見・支援の仕組みづくりや、特定の分野で特に優れた能力を持つ、発達障害、不登校などの課題を抱える子供たちの能力を伸ばす取り組みを広げる方策の先進事例として、提言は「ROCKET」を紹介しています。

▽教育確保法案の審議見送り
不登校の児童生徒の支援を初めて明記した「教育機会確保法案」の16年前半の通常国会での審議は見送られました。法案は超党派の議員連盟が提出、不登校の児童生徒の多様な学習活動の現状を踏まえ、必要な支援をするとの理念を掲げています。

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