第22回政治山調査「消費増税は争点にはなりえない―主婦から見た衆院選」(2/2)  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ >  調査・分析 >  政治山調査 >  第22回政治山調査「消費増税は争点にはなりえない―主婦から見た衆院選」(2/2)

【衆議院議員選挙2014】

第22回政治山調査「消費増税は争点にはなりえない―主婦から見た衆院選」(2/2) (2014/12/4 政治山)

消費増税の時期は衆院選の争点になり得るか

 消費税の税率を8%から10%へと引き上げる時期を、予定されていた2015年10月から2017年4月に18カ月延期する。民主主義の原点である税制に関して、自民党の政権公約に書かれていないような重大な変更を加えることに対する信を問う――これが、安倍晋三首相が11月21日の衆議院解散に際して掲げた「大義」である。それでは、消費税再増税をいつ行うかという問題は、今回の衆院選の争点となり得るのであろうか。

 今後の消費税率のあり方についてとり得る選択肢は、(1)5%に戻す、(2)8%を維持する、(3)2017年4月に10%に引き上げる、(4)2017年4月よりも後に10%に引き上げる、の4つである。

 主要政党の公約を見ると、(1)を主張するのが社民党、(2)を主張するのが共産党・生活の党、(3)を主張するのが自民党・公明党、再増税には賛成であるものの時期については曖昧にしている((3)か(4)か判然としない)のが民主党・維新の党・次世代の党である。

 11月調査では、「消費税の税率について、あなたのお考えに近いものを、次の中から1つだけお選びください」という質問で、上記4つの選択肢の中から回答者自身の考えに近いものを選んでもらった。それをまとめたのがグラフ4である。

 調査に応じた主婦の間で最も多い回答は「5%に戻すべきだ」で42.1%、次が「8%を維持するべきだ」で33.6%、そして「2017年4月に、10%に引き上げるべきだ」が12.3%、「2017年4月よりも後に、10%に引き上げるべきだ」が12.0%であった。言い換えれば、回答者の4分の3強が再増税に反対しているのである。

 自民・公明両党が掲げる「2017年4月に10%に引き上げる」という案に賛成するのが回答者のわずか12.3%に過ぎないというこの結果からは、今回の衆院選が消費税再増税(の時期)を争点として戦われた場合、安倍首相の思いとは裏腹に、主婦票の獲得に関して与党が苦戦を強いられることになるという可能性が考えられる。

(グラフ4)消費税率に対する態度

再増税の“時期”ではなく“是非”に高い関心

 その可能性を検証するために、《第21回政治山調査「主婦の半数強が棄権?戦後最低投票率の更新も」》で用いたのと同様の統計的手法で、消費税率に対する態度ごとに今回の衆院選における投票行動を予測し、その結果をグラフ5としてまとめた(煩雑になるのを避けるために、グラフでは、調査で投票意図を表明した回答者について予測される行動と、「まだ決めていない/わからない」とした回答者について予測される行動とをあわせて示した)。

 このグラフによると、10%への引き上げを容認する回答者の間では、自民党/公明党の候補者に投票すると予測される人が、非自民・非公明の候補者に投票すると予測される人を上回っている。逆に、10%への引き上げに反対する回答者の間では、非自民・非公明の候補者に投票すると予測される人が、自民党/公明党の候補者に投票すると予測される人を上回っている。これは、安倍首相の考えとは異なり、「2017年4月に10%に引き上げるか否か」ではなく、「そもそも10%に引き上げるか否か」が、主婦層の間で争点化していることを意味する。

(グラフ5)消費税に対する態度と予測される投票行動

消費税に対する態度は主婦票の行方を左右しない

 先に見たように、回答者の4分の3強が10%への引き上げに反対していることから、「そもそも10%に引き上げるか否か」が争点化することは、自民・公明両党にとっての大きなリスク要因になる可能性を秘めている。
しかし、この調査に基づく予測からは、消費税に対する態度が主婦票の行方を大きく左右することにはならないと考えられる。というのも、「8%を維持するべきだ」と考える回答者の56.0%(分析対象者の18.8%)、「5%に戻すべきだ」と考える回答者の70.8%(分析対象者の29.9%)は棄権することが分析からは見込まれるからである。

 データの限界から、これより先の議論は完全に推測の域を出ないが、自民党・民主党・維新の党・公明党・次世代の党がいずれも10%への引き上げを容認する立場をとる中で、10%への引き上げに反対するのが共産党・社民党のみであるため、そうした選好を持つ主婦層が現実的な選択肢としての投票先を見いだせず、棄権に回るという可能性が考えられる。

 「今回の衆院選において、消費増税の時期は、少なくとも主婦の間では争点になっていない」-これが、以上の分析から導かれる結論である。

棄権は信任、消費増税以外にも争点あり

 消費増税の時期が争点化していないということは、別の見方をすれば、それ以外にも選挙戦を通じて議論が展開されるべき多くの争点があるということである。具体的には、経済政策(いわゆる「アベノミクス」)や集団的自衛権の行使容認、原発再稼働など、これまでの2年間で第2次安倍内閣が進めてきた各政策の是非が争点となる。

 こうした重要な争点をめぐる戦いとなるにもかかわらず、今回の衆院選に関しては、筆者が先に政治山で発表したレポートでも指摘したとおり、投票率の低さが強く懸念されている。

 我が国では投票に行くことが義務化されていない以上、棄権という選択も当然認められる。しかし、選挙権を行使しないことの責任は、回り回って自分がとらねばならないということを忘れてはならない。棄権した人が、選挙後の政治について不平不満を並べたとしても、それは後の祭りに過ぎないのである。

<著者>今井 亮佑(いまい りょうすけ)
1977年京都府生まれ。2000年東京大学法学部卒業。2002年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、修士(法学)。選挙・投票行動研究、世論調査分析が専門。主な業績に、『原発政策を考える3つの視点 震災復興の政治経済学を求めて③』(共著、早稲田大学出版部)など。

< 前のページへ  2 >

関連記事
主婦の半数強が棄権?戦後最低投票率の更新も(2014/11/28)
主婦に聞きました!消費税増税による暮らしの変化(2014/4/23)
消費税増税に関する意識調査(2013/9/30)
安倍政権の2年間、過半数が「評価できる」(2014/12/3)
総選挙で重視する政策、「景気・雇用対策」が3割超(2014/11/26)
そのほかの調査
主婦特化型マーケティング調査サイト「暮らしの根っこ」とは
暮らしの根っこ株式会社うるるが運営する「暮らしの根っこ」は、女性・主婦10万人を擁する主婦特化型のリサーチサイトです。企業のマーケティング活動に活用できる女性・主婦の“生の声”を低価格・効率的に把握できる調査サイトとして多くの企業が利用しています。「暮らしの根っこ」ホームページ