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参議院議員選挙2013

ネット選挙解禁で、選挙が「みんなのもの」になるのか?~地方選の現場から考える~ (2013/7/25 愛知県大府市議 鷹羽登久子)

今回の参議院議員選挙は、インターネットによる選挙運動(=ネット選挙)が解禁された初めての国政選挙でした。このネット選挙解禁により、選挙戦が大きく変わると期待されましたが、実際はどのような変化をもたらしたのでしょうか。ネット選挙の功罪を間近で見てきた愛知県大府市議会議員の鷹羽登久子氏に寄稿いただきました。

◇       ◇       ◇

 次の統一地方選まで約1年半。解禁になったネット選挙は、地方選挙にどう影響していくか。また、影響させていくために、これからどう広げていくべきか。政党と無縁の現職地方議員である私は、参院選ではどの政党にも与さず一国民としてネットも含めた情報提供を受ける立場であり、次の選挙に立候補するならば、そのときには候補者としてネット選挙に挑むことになる立場である。

ブログに「私に票を託してください」と書くことができる

移動中に車内でフェイスブックをチェックする候補者

移動中に車内でフェイスブックをチェックする候補者

 7月13日、三重県松阪市に数名の地方議員が集まっている席で私は、「ネット選挙解禁について情報共有しましょう」と呼びかけ、総務省の資料を指して話し合いを始めた。いずれも政党籍を持たない、いわばフリーの議員であり、全員がブログやFacebookなどネットを日常で活用している面々だ。これまで選挙期間中は更新が認められていなかったこうした発信が、選挙期間中もできるようになった、というのがまずは当然の共通認識だ。うち1人の、まさに明日から自身が選挙に突入するメンバーは言う。「簡単に言えばそれだけかもしれないけど、私に投票してください、とブログに書けるのは、すごいことだよ」

 公職選挙法はまことにわかりにくいもので、「立候補します」「選挙に出ます」「私に1票を」ということを、告示前に公表・表示することは、「事前運動」として禁じられている。そして「選挙期間に入れば発信するな」となっていたから、これまでこう書くことは一切できなかった。それが分かっている立場であるからこそ、この言葉が出る。

ネット解禁は、金も手間もかかるだけ?

 しかし一方で、「解禁になって、さらに組織や金のある人が有利になるだけじゃないの」と別の声がある。選挙に金を惜しむということでなく、資金力がなくても選挙に真っ向挑むことができる社会は目指すべき1つであるからこその慎重なコメントだ。

 これは私も当初から予期していた。もちろん、デジタルネイティブ世代の候補者は手軽に低コストで対応していくことだろうが、地方議員の立候補者はこれまで年配の方が多く、おおよそネットの活用どころか、書類は未だに手書きという方も珍しくない。そこで、ネット選挙解禁になったから「ホームページを作らないと」「動画も作らないと」となると、外注して資金力で解決しようと考える候補者もあるだろう。デジタルネイティブ世代にしても、選挙がどういうものか分からないという不安から、プロにうまく作ってもらえるなら、と金をかけてしまう側面はある。

選挙前夜のとある事務所

選挙前夜のとある事務所

 さらに、ネットとの付き合い方、双方向性の強いSNSなどの特性と、地方選挙の特性に着目する。これまでも、ホームページは選挙期間前に作って公開しておくことは可能だったわけで、解禁の効果は、リアルタイム性を生かしたその日、その場の発信や、即応性を生かした政策議論をWEB上で行うなどしてこそだ。また、特に顔が見える距離であり、党の信条でなく個人に票を寄せることが主力となる地方選挙において有権者は、政策で判断したいという意識は当然だが、候補者個人の「人となり」も垣間見て、信頼おける人物か見極めようとする意識も働く。このため、親近感や、入り口として関心を持ってもらうことも貴重な第一歩となる。

 ある程度の時間をかけてSNSなどを使いこなしておくことで、即時性即応性を生かした政策や人となりを伝えるための発信をしていくことが可能となり、効果的な活用と言える。逆に言うなら、選挙対策でにわかにアカウントを取り事務連絡的に配信しても、手間と時間を取られるだけに終わるか、そうした発信も業者任せにしてさらに資金をつぎ込んだだけに終わる危険すらある。

 また、地方選挙の困難さの課題の1つに、選挙戦を通してコーディネートできる、いわばチームリーダーの不在がある。スケジューリングし、使える手段や時間の割り振り、協力者の人員体制までを、候補者が自ら采配していることも往々にある。候補者兼プロデューサーとして活動していたら、WEB対応は負荷が純増する。

 では、ネット選挙解禁になっても、金がかかるか手間がかかるかばかりで良い事がないのか?

有権者による、有権者のためのネット選挙に

 総務省のガイドライン

総務省のガイドライン

 今回の解禁で、候補者がどのようなツールを使うことができるようになったかという視点に終始しがちであるが、有権者に伝える方法が拡大されたということであり、有権者にしてみれば、判断材料が増えたということは違いない。そして、最も大きな解禁の要素の1つは、候補者本人でなくても、政党でなくても、薦めたい候補者の情報をブログに書いたり、SNSでシェアしたりして拡散ができることが明確になったことだ。選挙や政治は、候補者と政党、縁者だけのものではなく、「この候補者を応援したい」という明確な意思を持った成人のすべての人が、選挙運動をする当事者として主体的に選挙に関わることが「携帯1つでできる」ということが、明確に想定されたということだ。

 みんながよい商品を手に取り、対価を払ってもいいと思うことのできる商品を選ぶ。そのための陳列棚が少し見やすくなった、手に取りやすくなった。よい商品は人に薦めたくなるから、口コミを投稿する。消費者の主体的な判断と行動の繰り返しで、商品はよい物が提供されるようになる。消費者が主体的にならなければ、それなりの商品のラインナップで終始するのは自明の理である。この「消費者」を「有権者」に置き換え、「商品」を「候補者」に置き換え、「対価」を「税金」に置き換えて考えていただきたい。

 今回の解禁は、そのお店の陳列棚が、少し手前に少し明るくなったようなものだ。棚の前まで足を踏み出し、手に取るには客自身が動かないといけないように、税金を払うに足る議員を選出しようと思うなら、選挙公報を手に取り、携帯片手に候補者情報を見るところまでは、自身が動かなければいけない。「投票当日はシェアしてはいけない」など難しそうに感じるが、「売り出し期間は投票前日までのタイムセールだから、販売期間が過ぎたものを宣伝することはできない」というだけのこと、そして「お財布を持たされていない子ども(=未成年)は口コミに参加できない」というだけのことだ。

 候補者になろうとする者は、見やすい手に取りやすい商品陳列ができているだろうか。説明を尽くしているだろうか。有権者は、賢い消費者であろうとしているだろうか。そこに行き着くことができなければ、大手広告代理店(=資金力、組織力)に市場を左右されるだけになる。1年半かけて、そこまで浸透できるか、浸透させる明確な意思を持って各々がそれぞれの立場で働きかけていくことができるか。

 統一地方選まであと1年半強である。自らも発信に手が回っていない反省を抱えつつ、みんなの選挙にするために、できることが増えたネット選挙を育てていこう。

著者プロフィール
大府市議会議員 鷹羽登久子氏鷹羽 登久子(たかば とくこ):愛知県大府市議会議員 2期目。既存政党とは距離を置く無所属。 各地の地方議員や学識者と交流を持ち、勉強会や合同視察の企画などを行っている。同業者の仲間うちの呼び名は「ねえさん」。
HP:大府市議会議員 たかばとくこ のホームページ
twitter:takaba_tokuko
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