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避難指示解除後のふるさと再生へ、新しい生業を創り出す (2016/12/6 東北復興新聞

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「半農半電」「薪商」に学ぶ融合力と柔軟性

東京電力福島第一原発事故から5年半以上が経ち、避難指示が解除された福島県の各市町村で、住民たちが新しい生業創出のために動き始めた。解決を待つ課題は少なくないが、そこには確かな希望もある。11月5~6日に開催された体験プログラム「ふくしま“みち”さがしツアー」に同行し、南相馬市小高区や田村市都路町に住む人々の取り組みを取材した。

持続可能な発電と農業を目指すビジネスモデル

この体験プログラムは、環境省と県が共同運営する除染情報プラザが主催した。相馬中央病院医師の越智小枝さんをナビゲーターに、一般公募に応じた県内外の参加者11名と運営スタッフを伴い、南相馬市や川内村、田村市都路町、三春町などを訪れた。

えこえね南相馬研究機構代表の高橋さん。「震災後の新しい地域経済の仕組みを自分たちの手でつくっていきたい」と語る。

えこえね南相馬研究機構代表の高橋さん。「震災後の新しい地域経済の仕組みを自分たちの手でつくっていきたい」と語る。

最初に訪れた一般社団法人えこえね南相馬研究機構は、2013年3月に発足し、8月から南相馬市原町区で再生可能エネルギーの普及と農地再生に取り組んでいる。また、2014年に経済産業省の半農半エネ等モデル推進事業を利用して、現在区内にあるカボチャ、ミョウガなど8カ所の畑やハウスの南側など約6000平方メートルの上部にソーラーパネルを設置。固定価格買い取り制度によって、再生可能エネルギーを電力会社に販売しやすくなったことを背景に、年間1000万円分の電気を東北電力に売っている。代表の高橋荘平さんは、売電収入を加えることで農家の収入増につながり、農家の後継者確保も期待できると考えている。故郷がこれまで原発施設に経済的に依存していたことや、突然ふるさとの成り立ちが大きく変えられてしまう体験をした高橋さんは、「これからはメガソーラーなどの大企業に委ねるだけではなく、小さくても自分たちでご当地エネルギーを持続的に作っていきたい」と語る。

えこえねメンバーの1人で、震災前は有機農法に取り組んでいた南相馬農地再生協議会の杉内清繋さんは、震災後、有機農業に取り組むNPOや、名古屋大教授のアドバイスのもとで菜の花栽培をはじめ、純国産菜種油「油菜ちゃん」を製造販売している。水溶性で菜の花の油分には移動しないというセシウムの特性を利用し、薬剤を使わずに搾油することで、安全かつ高品質な商品づくりに成功した。「油菜ちゃん」は年々売り上げを伸ばし、2016年度は初年度の6倍以上の売り上げとなる3万本を見込む。また、昨年には石鹸メーカー「LUSH」と協力し、菜種油を使ったコラボ商品も企画。他の石鹸の2倍近い価格設定にも関わらず、現在ほとんどの店舗で売り切れているほどの人気だ。

南相馬農地再生協議会の杉内さん。一面に菜の花が咲くふるさとをつくる。

南相馬農地再生協議会の杉内さん。一面に菜の花が咲くふるさとをつくる。

今年9月には、滋賀県の環境保護団体や名古屋のNPO、地元相馬農業高校の生徒ら120人が集まり、菜の花畑に種を撒いた。春になれば市内全域約70ヘクタールの広大な畑一面に菜の花のイエローロードが広がる。

「えこえね」は、3年半で軌道に乗りつつある。今後は、持続可能な事業体として成長するためにも、しっかり利益を出せるような仕組みづくりを意識し、全国の農業や再エネ事業が抱える課題を解決するヒントになるようなビジネスモデルを目指すという。

注文が殺到する「薪商」という新しい生業

三春町では、薪ストーブ用の薪を販売する新しい生業が成長をみせている。県内の家庭を中心に薪ストーブ用の薪を販売する「薪商はぜるね」の武田剛さんは、震災後に東京から三春町に戻り、稲作や原木シイタケの栽培、原木生産を営んでいた実家から独立起業して、薪販売を始めた。

薪商はぜるね社長の武田さん。木材は2年間乾かしてから薪として販売している。

薪商はぜるね社長の武田さん。木材は2年間乾かしてから薪として販売している。

震災後、全国的に大手企業が提供する電気や石油ではなく、「顔の見える」個人商店から薪を購入し、自分自身の手でそれを燃やす薪ストーブを好む傾向にあるという。さらに、昨今の自然志向ブームの影響から、若年層だけではなく、定年後に家を建て替える際に導入する家庭も全国的に増えており、武田さんが製造する薪を求める顧客は年々増加している。2015年度には400件の注文が入り、現在は需要過多で供給が追い付かないほどだ。今後は、薪窯を備えたレストランも展開したいと意欲を見せる。時代のニーズに対応する柔軟性、代々続く生業を思い切って方向転換した発想力と行動力が、「薪商はぜるね」の今後の展開にどうつながっていくのか、期待が高まる。

立ちはだかる壁、そして「未知」の生業を創出する底力

一方、地域の生業創出には課題も残る。田村市都路町では、震災前に出荷量全国1位を誇っていたシイタケ栽培用の原木がいまだ出荷停止をしたままだ。表皮をつけたままの原木では厳しく制限された放射性物質出荷基準値をクリアできず、表皮を剥いで検出限界値未満まで除染した木材を建材やチップとして出荷してはいるものの、多大な手間がかかる上、売り上げもなかなか戻らない。土壌を除染して植樹し、木が成長するまでには30年かかるといわれ、先が見通せないままだ。

中央森林組合都路事業所では、木材の線量を計測している。

中央森林組合都路事業所では、木材の線量を計測している。

現場を視察中、「この木は捨てられるために長い時間を生きてきたわけじゃない」と作業員が呟くと、「何か力になりたい」とプログラムの参加者が声を上げた。現場の状況や思いを広く共有する場が、困難な課題解決の突破口を開く一助となるかもしれない。

帰路の車内で、プログラムの参加者が「震災や事故で失ってしまったものを嘆くだけではなく、何か新しい付加価値をつけられるようなアイデアを出し合ってやっていこうとしている。そこに人間の底力を感じた」と語った。

福島の各地域には、事業のスタートアップ時に利用できる支援の仕組みや、震災後に大きく変化した消費者意識など、逆境にあっても視点を変えればチャンスになり得る要素は十分にある。

「町の人の意識も変わりました。今の福島は面白いと思いますよ」と高橋さんは言う。自分たちの手でふるさとをゼロから新しく作り上げていこうという人々の思いと、外部からの様々な支援が融合して、福島はまさに今「未知」の生業を創出しはじめている。

文/服部美咲

提供:東北復興新聞

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