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海の多様性を守り沿岸地域の漁業も再生に導く「里海づくり」 (2016/10/19 nezas)

関連ワード : 備前市 岡山 香川 

 「里海づくり」という取り組みをご存じでしょうか。里海とは、「人手が加わることにより生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域」のことです。これは1999年、NPO法人里海づくり研究会議の柳哲雄副理事長によって提唱されました。

 里海は、古くから水産・流通などといった分野において、私たちの文化や交流を支えてきた大切な海域です。高い生物生産性と多様性が求められる一方で、人と自然の中間地点でもあります。陸地で例えるならば里山と同じです。

 日本での「里海づくり」について、実例とともに紹介します。

紫雲出山からの瀬戸内海

なぜ「里海」が必要なのか?

 近年、閉鎖性海域が荒廃の危機にさらされています。閉鎖性海域とは、地理的要因で水の流出入の機会に乏しい環境にある海域のことで、自然による自浄作用が行われにくく、汚染物質が蓄積しやすい性質をもっています。そのため、工場排水などによる水質汚染が原因で発生した赤潮や、沿岸海域などで増加した海洋ごみ、干拓・埋め立てなどによる生態系の劣化などにより、物質循環機能の低下や環境の悪化を招きやすいのです。

 この問題を解決するには、二つの柱からなる「里海」の実現が必要不可欠です。一つめは、山から始まり海に至るまでの流域全体の環境管理を実施すること、二つめは、食物連鎖のピラミッドにおいて、高位の魚類も含めた海洋生物資源管理を実施することです。

 かつて日本沿岸域にはたくさんの藻場や干潟が存在していました。藻場は、昆布やアマモなどといった海藻が繁茂している場所のことです。水質・底質の浄化や、魚介類の産卵・生息地として重要な役割を持っています。一方で干潟は、潮の干満によって出現と水没を繰り返す砂泥地のことです。ここに生息する二枚貝や底生生物などが、陸から流れ込んでくる物質を分解するので、水質浄化機能がとても高くなります。また、ここに生息する生物を餌とする魚類や水鳥が多く集まるので、物質循環や生態系においても重要な役割を持っています。

 もちろん、私たちにとっても重要な場所です。潮干狩りなどの魚介類の採取や、肥料・燃料としてのアマモの採取などが行われてきました。しかし、高度経済成長期にこれらの場所の多くは失われてしまいました。特に干潟に生息するアサリは、全国的に見ても著しく減少しています。これ以上の生態系劣化を防ぐため、各地で里海づくりが実施されています。一例を挙げると、有明海、沖縄、韓国などで、石干見と呼ばれる漁法で石垣づくりが行われていました。また、都市部では人工的に干潟や浅場をつくり、アマモ場を造成しています。

「里海づくり」の取り組み

 既に全国各地で、里海づくりの取り組みが実施されています。その中から2ヶ所を紹介します。

1.岡山県備前市日生町 里海づくりのモデル
 岡山県備前市日生町は、1965年から海洋ゴミ回収を底引き網で行うなど、環境への意識が非常に高い漁師の町です。この町周辺では、原子力発電所やリゾート開発といったさまざまな開発計画の話がありましたが、地元の漁師たちの反対で実現することはありませんでした。

 環境に敏感な漁師たちでしたが、かつてはアマモを目の敵にして刈り取ってしまった過去がありました。アマモは船のスクリューなどに絡みついてしまい、そのちぎれたアマモは流れて網に大量に引っかかるため、漁の厄介者でしかなかったのです。

 アマモを刈り取った結果、漁獲量は激減しました。当時は、まさかアマモが無くなったことが原因とは誰も気づかず、10年の月日が経った後、やっと駆除していたアマモこそが重要だったのだと気づいたのです。しかし、一度減ってしまったアマモを元に戻すことは簡単なことではありません。水質・底質などの問題が壁となっていました。そこで、日生町漁協はアマモの根づきをよくするためにカキ殻を散布するなど、アマモ場の再生をはじめました。再生化に取り組んでから25年もの歳月を経て、少しずつ海が浄化され最終的にはカキ養殖地が復活しました。

2.香川「里海」づくりビジョン
 香川県で行われている瀬戸内海の里海づくりの取り組みです。瀬戸内海の環境悪化は、半世紀前から始まったとされています。海水の栄養塩の循環バランスや、赤潮・海苔の色落ちなどの問題が発生しています。

 これに対して香川県は、県ぐるみで人々に山から川・里(まち)・海のつながりを周知し、物質循環を考慮しながら共存していかなければならないと、取り組みを実践しています。まずは一人ひとりの意識を変えるために、今抱えている地域の課題を解決するためのイベント企画を考えるセミナーや海産物や作物を使った料理をつくるワークショップなどのイベントを実施しています。

里海づくりのメリット

 里海づくりのメリットとして、養殖業の生産性向上や、漁場が豊かになり地域の再生につながるなどの環境改善が挙げられることはもちろんです。それに加えて、現代の私たちに薄れつつある「人々の関心の高まりや繋がり」も再生されているのは重要なことです。

 里海づくりは、私たちの生活に直接は関係ないかもしれません。しかし、間接的には生活の中に必ず関係してきます。この機会に、里海についての関心を高めてみてはどうでしょうか。

提供:nezas

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