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「誰でも作れる」制約が生む付加価値。淡路島の商品開発の仕組みとは (2015/11/27 ジモトのココロ

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地域をあげて、売れる「物」を作ろう、作る「人」を集めよう、生み出す「スキル」を育てよう――「30年後、日本の自治体の半数は消滅する」という言葉(通称・増田ショック)以降、どこの自治体を見てもこの動きが高まっているようです。日本書紀で「日本で一番最初にできた島」とも言われる兵庫県・淡路島でもその状況は同じですが、これまで通りの特産品を作り、確定した販路へ売っていた地方の生産者が、急に新しいビジネスと雇用の創出に取り組めるのか…と言われると実質難しいはず。そこで、淡路島を拠点に立ち上がったのが「民」と「官」による協働事業「淡路はたらくカタチ研究島」です。

現代版「淡路瓦」はとことんシンプルがキモ

つながりをうみだす商品発表会

11月24日から29日まで、「淡路はたらくカタチ研究島 つながりをうみだす商品発表会」が東京都渋谷区・ヒカリエで開催されています。ここで発表されるのは、淡路はたらくカタチ研究島プロジェクトが1年かけて考案した淡路島ならではの商品たち。

まちまち瓦

まちまち瓦

商品開発3年度目となる今回、商品発表会で披露されたものの中でもひときわ目を引くのが「まちまち瓦」です。「淡路瓦」と言えば淡路島の伝統産業のひとつで、今でも島内に約80軒もの瓦の窯元が現役なんだそう。

瓦と言えば分厚くて波打つような形を思い浮かべますが、今回開発されたのは薄めで平坦、模様が何もない「つるつる」瓦と、縦のシンプルストライプの「しましま」瓦です。

株式会社タツミ・興津祐扶さん

株式会社タツミ・興津祐扶さん

「今の住宅の価値観に合うシンプルでモダンなデザインを考えました」と話すのは、この開発商品の提案者で、瓦の窯元・株式会社タツミの興津祐扶(おきつゆうすけ)さん。淡路の瓦づくりは完全分業制で、鬼瓦や軒瓦、袖瓦など作る瓦の種類はその窯元で決まっているそうで、代々続くタツミは装飾豊かな鬼瓦を作っています。

「企画の当初は鬼瓦のデザインを変えたり、瓦に装飾をしたりという案もありました。ですが、分業制をとっている淡路瓦としては、あらゆる窯元が一緒に商品開発をして、製造まで担うことのできる連帯した商品づくりが重要でした。そこで、形をシンプルにして、特別な金型がなくても製造できるものにしたのです」。

淡路瓦

フラットな瓦なら、どの窯元でもつくることができます。そして反りやすく製造が難しいと言われている薄い瓦は、400年の伝統続く淡路瓦の職人の技術力あってこそ生み出されます。

完成した瓦は「まちまち瓦」と名付けられました。仕上げは「つるつるフラット)」と「しましま(スクラッチ)」の2種類。カラーバリエーションとしては、通常のいぶし銀に加えて、これまで全て均一が良いとされてきた瓦をあえて達磨窯で焼き、色むらを出した「むらむら」瓦と鉄分の多い淡路島の土だからこそできる黒いぶしの「くろぐろ」瓦の全3パターンを開発しました。厚さとフラットさ以外はサイズも色も模様も違う瓦を組み合わせることで、瓦の「いぶし銀」色も見る角度でその印象を変えます。

株式会社タツミ・興津祐扶さん

「屋根の瓦としてはもちろん、レンガのように壁や部屋の内装なんかにも使っていただけるのではと思っています」。春を発売予定に、これから販路開拓を進めていくそうです。

淡路島ならではの伝統とセンスが詰まった商品

商品発表会では、瓦商品だけでなくプロジェクトを通して開発された淡路島ならではの商品が展示されています。

花の生産が盛んな淡路島ならではの、3種類の花の恵みを活かした石けんや、瀬戸内海に浮かぶ淡路島の温暖で雨の少ない気候により実現したデュラム小麦セモリナ粉はパスタには欠かせません。かつては当たり前であった日用品を手作りする生活を再び提案する、自分だけのオリジナルのほうきを栽培・加工して作れるほうき制作キットなど、伝統とセンスとアイデアが詰まったオリジナル商品が並びます。

Suu BOTANICAL SOAP

ひまわり油、ラベンダー精油、カレンデュラの花びらが入った石けん「Suu BOTANICAL SOAP」


淡路島産デュラム小麦のセモリナ粉

温暖な瀬戸内海の気候で育てる「淡路島産デュラム小麦のセモリナ粉」

育てるほうき

ホウキギを育ててつくるほうき制作キット「育てるほうき」

「誰でも作れる」制約が新たな付加価値を生む

これらの商品が生まれたきっかけは、意外にも全てが淡路島の方々からの「公募」。プロジェクトでは地域の声を公募を通して聞くことで、より淡路島らしい商品が生まれます。

淡路はたらくカタチ研究島の商品開発フロー

淡路はたらくカタチ研究島の商品開発フロー

淡路島ならではの付加価値のある商品を作り雇用につなげるというのが、淡路はたらくカタチ研究島の目的です。そのために欠かせないのが関係者や地元の方へのリサーチなんだそう。地域に根付いた文化の歴史や活用事例、生産者の思いを組み込むことで、より淡路島らしく、商品開発後の製造可能性も担保します。

玉ねぎの皮で染めた風呂敷「SHIMAIRO」

淡路島で生産のさかんな玉ねぎの皮で染めた風呂敷「SHIMAIRO」(昨年度の開発商品)

このプロジェクトの難しさのひとつに「どの事業者でも作れるものを製品化する」というのがあります。そもそも淡路はたらくカタチ研究島は厚生労働省の委任事業として、淡路島の雇用を生むプロジェクトとして立ち上がりました。付加価値のある商品を生み出すことはもちろん、雇用創出のためにどの事業者でも作ることができる商品の開発が求められました。

エッセンシャルオイル「Suu」

温暖な淡路島の気候に育つ鳴門みかんなどで作るエッセンシャルオイル「Suu」(昨年度の開発商品)

一見製品開発の負荷になりそうな制約ですが、「まちまち瓦」の例でもあるように、制約があるからこそ事業者が協働して開発に取り組んで初めて生まれる新しい付加価値もあります。淡路はたらくカタチ研究島がこのプロジェクトに取り組んで4年、既にたくさんの商品が生まれ、それが実際に淡路島の雇用に結びついています。

今年度開発された商品も、今回の商品発表会をきっかけに東京などで販路を獲得し、都市から新しい淡路島の魅力を発信するきっかけになるに違いありません。今後どこかのショップでこれらの商品を見かけることができる日が楽しみです。

協力:淡路はたらくカタチ研究島: http://hatarakukatachi.jp/

提供:ジモトのココロ

著者プロフィール
まつこまつこ
おんせん県(大分県)生まれ。好きな大分料理は「吉野鶏めし」、もちろん冷蔵庫に「かぼす胡椒」は欠かせない。現在は、持ち前の酒飲み女っぷりを発揮し、東京の飲み屋をさまよう日々。
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