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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第9回 第8回マニフェスト大賞を振り返って ~今年の傾向と私の選ぶ善政競争事例~ (2013/11/14 早大マニフェスト研究所)

5月からスタートした早稲田大学マニフェスト研究所による新コラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第9回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。掲載は、毎月第2木曜日。月イチ連載です。今回は、『第8回マニフェスト大賞を振り返って ~今年の傾向と私の選ぶ善政競争事例~』をお届けします。

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今年の受賞作品の傾向

 第8回マニフェスト大賞の授賞式が11月1日、東京港区の六本木ヒルズで開催されました。当日は、既に発表されていた6部門40の優秀賞の中から最優秀賞が選ばれたほか、審査委員会特別賞(箭内道彦選、秋吉久美子選)を加え8部門16作品が表彰されました。今年で8回目を迎え、全国から過去最高の2108件、1537団体の応募があり、着実に善政競争の輪が広がってきていることを実感しています。

 私は、早稲田大学マニフェスト研究所の招聘研究員として、第1回からこのマニフェスト大賞の運営に関わってきました。今年の受賞作品の傾向を分析すると、次の4点にまとめられると思います。(1)マニフェスト型自治体経営を確実に進める首長、(2)市民が主体的に取り組む活動の急増、(3)ネットを活用したコミュニケーションの広がり、(4)選挙管理委員会・議会事務局の積極的な取り組み、以上の4点です。

 今回は、受賞作品の中から、この4つのカテゴリーごとに、それぞれ私なりに評価の高い事例を1つずつ紹介したいと思います。

マニフェスト型自治体経営を確実に進める首長:清水勇人・埼玉県さいたま市長

 国政では民主党政権の失敗により、マニフェストは地に落ちてしまいました。しかし、地方の首長の中には、マニフェスト・サイクルをしっかり回し、その実績が評価され、厳しい選挙を勝ち抜き再選される首長が多数現れています。松阪市の山中光茂市長や、奈良市の仲川げん市長がそれに当たりますが、今回、マニフェスト大賞首長部門グランプリを受賞したさいたま市の清水勇人市長もその1人です。

首長部門グランプリを獲得した清水勇人さいたま市長

首長部門グランプリを獲得した清水勇人さいたま市長

 清水市長は、1期目当選後、マニフェストを総合計画にしっかり位置付け、重点的に取り組む施策を盛り込んだ「しあわせ倍増プラン2009」を策定しました。プラン実現のため、任期付き職員採用に関わる条例を制定し、民間人を課長級、部長級に12人登用しました。市内全区においても区長マニフェストを作成させ意識改革を図るなど、マニフェストの実行体制強化の取り組みを行ってきました。また、市民評価委員会による精緻(ち)な外部評価を実施し、市民参加による報告会を毎年度実施しています。

 着実なマニフェスト・サイクルにより、マニフェストの約9割を達成し、その結果もあり、今年5月の選挙で再選を果たしています。マニフェストを選挙の時だけの道具にせず、首長がリーダシップを発揮してマニフェスト・サイクルを回していけば、選挙にも強いことを証明していると思います。

市民が主体的に取り組む活動の急増:ポリレンジャー~若者の手で政治をよくし隊~

 これまで、市民部門の応募団体は、マニフェスト型公開討論会やマニフェスト評価検証大会を開催した全国の青年会議所の方々が多数を占めていました。それが今回は、マニフェスト大賞市民部門グランプリを受賞した「相良、片浜、地頭方、川崎、細江地区自治推進協議会・発⑩(ハッテン)牧之原」のように地域の自治会であったりと、そのバリエーションが広がってきています。その中でも、最優秀マニフェスト賞(市民)を受賞した、島根県の大学生によって構成された「ポリレンジャー〜若者の手で政治をよくしたい隊〜」の取り組みは秀逸です。

松江市長に「松江市政の通信簿」を渡すポリレンジャー

松江市長に「松江市政の通信簿」を渡すポリレンジャー

 ポリレンジャーは、若者の政治参画を促進していくことを目的に設立された学生団体で、松江市長のマニフェストを学生の視点で評価し、評価結果を「松江市政の通信簿」としてまとめ上げました。また、その結果を広く市民に知らせるため、市長を招き、マニフェスト評価検証大会を開催しています。評価の内容も、妥当性、効率性、有効性、市民性の4つの評価軸で点数化し、学生としてはかなり精緻な内容となっています。

 マニフェストの評価は、多様な市民が、多様な手法で行うことが大事です。これからの地域を担う学生たちが、その評価主体に加わったことは頼もしいかぎりです。

ネットを活用したコミュニケーションの広がり:自由民主党神奈川県支部連合会参議院選挙ネット選挙対策プロジェクトチーム

 今年7月に実施された参院選から、ネット選挙が解禁されました。そのため、従来のコミュニケーション賞を、ネット選挙・コミュニケーション戦略賞としたこともあり、今回はネットなどICT(情報通信技術)を活用した議会、政党、議員、行政の取り組みが多数見られました。その中でもネット選挙に積極的に対応し、優秀ネット選挙・コミュニケーション戦略賞を受賞した「自由民主党神奈川県支部連合会参議院選挙ネット選挙対策プロジェクトチーム」(自民党神奈川県連ネット選対)の取り組みは、参考になります。

自民党神奈川県連ネット選対の撮影風景

自民党神奈川県連ネット選対の撮影風景

 自民党神奈川県連ネット選対は、参院選で、Ustremの生配信による「かながわ自民TV」「かながわ自民党facebookページ」「Youtubeかながわ自民チャンネル」の3本を柱に、選対所属の地方議員が中心となり手作りで運用しました。アーカイブ(録画)としてデータが蓄積され、政策をはじめとする政党や候補者の情報が「見える化」されたことも大きいと思います。

 今後の選挙においても、握手、連呼などの「お願い」の部分はなくならないと思います。しかし、ネット選挙解禁により、その比率は確実に少なくなり、政策などの「約束」のウエイトが高まっていきます。自民党神奈川県連ネット選対が目標に掲げた「地上戦を制し、空中戦も制す」、ドブ板選挙とネット選挙のバランスが、これからの選挙では重要になってくると思います。

選挙管理委員会・議会事務局の積極的な取り組み:広島県選挙管理委員会

 従来のマニフェスト大賞では、賞の構成上、首長、議会・議員、市民の受賞がほとんどでした。しかし、今回は、日本の民主主義の向上のために重要なミッションのある選挙管理委員会(選管)や、二元代表制の一翼を担う議会をサポートする大事な役割のある議会事務局など、行政組織の取り組みが新しく登場してきました。その中でも、従来の選管の枠を超えた啓発活動に一歩踏み込んだのが、優秀ネット選挙・コミュニケーション戦略賞を受賞した広島県選管です。

広島県選管の斬新的な選挙啓発ポスター

広島県選管の斬新的な選挙啓発ポスター

 広島県選管は、参院選に際して、若者、有識者や広報の専門家と意見交換を行い、インターネットやSNSを活用した、斬新でインパクトのある若者を中心とした参加型の選挙時啓発を実施しました。具体的には、「フラッシュモブ」(ネットを通じて多くの参加者を誘い、不特定多数の人が申し合わせて、通りすがりを装い公共の場でパフォーマンスを行うこと)を素材としたプロモーション動画を作成し、ネット上で拡散、各種マスメディアに大きく取り上げられました。こうした取り組みが投票率アップにどれだけ効果が上がったかは、今後検証しなければなりませんが、何よりも保守的な選管がこのような新しいことに挑戦したことは評価に値すると思います。

進化し続けるマニフェスト大賞

 今年も全国から多くの善政事例がマニフェスト大賞に集まってきました。8年前の第1回マニフェスト大賞の応募は221件、136団体でしたので、約10倍の応募数となり、この8年間で量、質ともに大きく進化しています。政策には特許はありません。善い政治の競争、善政競争の言葉通り、まねできる政策はどんどんまねをして、また、そこから新しい取り組み、政策が生まれてくる。そうしたサイクルが、マニフェスト大賞を起点に全国に広がることを期待しています。

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佐藤淳氏

青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
関連リンク
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Twitterアカウント(@wmaniken)
第8回マニフェスト大賞 政治山特設ページ
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