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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第25回 総合計画を動かす対話の場の取り組み~青梅市における「ぷらっと・カフェ」と「青梅まちづくり工房」の実践から~ (2015/1/22 早大マニフェスト研究所)

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早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第25回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、「総合計画を動かす対話の場の取り組み~青梅市における「ぷらっと・カフェ」と「青梅まちづくり工房」の実践から~」をお届けします。

総合計画は何のためにあるのか

 先日、ある自治体の50人規模の若手職員の研修会の冒頭で、「自分たちの自治体の総合計画を見たことがありますか?」という質問をしてみました。なんと、見たことがあると答えてくれた職員は10人程度。また、「自分の仕事が総合計画のどこに位置づけられているか分りますか」という質問に対しては、分かると答えた人は、残念ながら1人もいませんでした。

 この自治体の職員が特別ひどいわけではないと思います。多くの自治体では、総合計画は、役職者と一部の企画担当職員が中心になり、総合計画審議会などによる形式的な市民参加を経て作られます。作成に関わっていない職員にしてみれば、他人事であり、多くの市民にとっては、そんな計画知りません、というのが本音のところだと思います。作成されたら終わり、神棚に飾っておくだけのものになっている総合計画が多いのではないでしょうか。

 総合計画は、その地域の地域づくりの最上位の計画で、住民福祉の向上のため、計画的な行政運営を行うには欠かせないものです。今回は、作成された総合計画を実効性のあるものにするため、市民参加で取り組み始めた東京都青梅市の実践を紹介したいと思います。

施策連動型の仕組みとしての「ぷらっとフォーム」

 東京都青梅市では2012年に、2013年度から22年度までの10年間を計画期間とする総合長期計画が作成されました。その計画には、計画を実現するために、多様な主体が参画、連携、協働し、あらゆる分野の枠を超えて施策や事業が連動することで、相乗的に効果を発揮する施策連動型のしくみ(「ぷらっとフォーム」)の展開が位置付けられています。「ぷらっとフォーム」は、市役所の中の横の連携を密にするとともに、市役所と市民、コミュニテイーとの連携、協働を図るための新たな話し合いの場を核とします。

 しかし、その場をどのように作り、運営していくかは、実施段階における大きな課題でした。計画がスタートした2013年に担当となった企画政策課の高野剛志さんは、「ぷらっとフォーム」の制度設計と立ち上げに向けて頭を悩ませていた時に、福岡県宗像市が、ワークショップの1つの手法である「ワールドカフェ」を使って、職員、市民参加で総合計画を作成していることを知り、これは活用できるのではないかとの思いで宗像市に視察に行きました。

 ワールドカフェは、カフェにいるようなリラックスした雰囲気の中、小グループ単位で、参加者の組み合わせを変えながら自由に対話し、話し合いを発展させていくワークショップの進め方です。宗像市では、福岡県福津市の津屋崎地区で移住・交流プロジェクトを展開する「津屋崎ブランチ」の代表の山口覚さんにアドバイザー兼ファシリテーターを務めてもらいながら、総合計画の職員参加と市民参加の部分を、ワールドカフェを活用しながら行っていました。高野さんは、宗像市民の総合計画作成への参加の盛り上がりを感じ、青梅でも山口さんをアドバイザー兼ファシリテーターとして、「ぷらっとフォーム」の制度設計を考えることになりました。

ぷらっとカフェの全体の様子(左)、テーブルの様子(右)

ぷらっとカフェの全体の様子(左)、テーブルの様子(右)

ワールドカフェ形式による「ぷらっと・カフェ」

 「ぷらっとフォーム」では、核となる話し合いの場をワールドカフェの手法を使って進めることとし、その場を「ぷらっと・カフェ」とネーミングしました。ワールドカフェには、「話しやすさを生み出す」「発言の機会が増える」「参加者全員の意見が集まる」といったことのほか、「参加意識が高まり満足感が得られる」「人と人とのつながりができる」といったさまざまな効果があります。「ぷらっと・カフェ」は、対話をベースとして、事業のタネの創造、育成の場を目指します。基本的に、市民が参加しやすい平日の18時から21時、2カ月に1回、無理に動員はせずに市の広報紙や行政メールなどで呼び掛け、山口さんがファシリテーターを務める形で開催することになりました。

 2013年11月、まず、若手職員(各課よりまんべんなく参加者を募集)がワールドカフェの手法を体験する意味の第0回「ぷらっと・カフェ」が開催され、山口さんのファシリテーションのもと、総合長期計画および「ぷらっとフォーム」の理解を深めました。

 そしていよいよ、2014年1月、職員と市民ら23人が参加して、第1回「ぷらっと・カフェ」が開催されました。第1回は、今後「ぷらっと・カフェ」で話し合っていく主要な6つのテーマ(「そうだ!青梅に行こう!と思える魅力づくりを考える」「青梅ならではの子育てについて考える」「青梅に移住したいと思える取り組みを考える」など)が決められ、2回目以降にこの中から毎回1つテーマを選び、その内容を深めていくことになりました。

 「ぷらっと・カフェ」は、2014年6回開催され、これまで毎回20~50人程度が参加しています。リピーターとその口コミにより、少しずつ多様な住民の参加の輪が広がっています。プロである山口さんのファシリテーションにより、突拍子もないようなアイデアから、うーんと唸らされるアイデアまで、多数のアイデアが出されます。出されたアイデアは、山口さんによりファシリテーション・グラフィックの技法でホワイトボードにまとめられます。「ぷらっと・カフェ」は、出会いの場でもあり、参加者各々の気づきの場であり、新たな何かが生まれる場になっています。担当の高野さんは、「ぷらっと・カフェ」の成果を次のように話しています。

「さまざまな方が参加し、自由に対話する場を設定できたこと自体が、現時点での大きな成果であると考えます。これまでの会議では考えられなかったアイデアやつながりを生み出している『ぷらっとカフェ』は、青梅にイノベーションを生む土台となると思います」

 2014年度中はピックアップした6つのテーマを話し合い、15年度には市の課題を毎回選定し、継続して実施していくとともに、この成果を次のステップに活かせるよう検討を加える予定になっています。

ファシリテーショングラフィックによる話し合いの成果物

ファシリテーショングラフィックによる話し合いの成果物

市民のアイデア実現を後押しする「青梅まちづくり工房」

 当初、「ぷらっと・カフェ」で出てきたアイデアは、市民が中心になって事業化し、従来から制度としてある市民提案協働事業に応募してもらい、補助金や人的支援により市が事業立ち上げ時のバックアップを行っていくことをイメージしていました。ワークショップのやりっぱなしではなく、出てきた意見をしっかり形にしていくということです。

 しかし、市民にはまだまだアイデアを事業化し、運営していくノウハウが不足していることが、「ぷらっと・カフェ」を重ねるうちに課題として分かってきました。この部分を補う役割を担う事業として生まれたのが、教育委員会が行う「青梅まちづくり工房」です。この事業はそもそも、社会教育課の細川裕香さんが、趣味講座開催が中心の社会教育事業の限界と、まちづくりを担う人材の育成こそ社会教育の役割ではないかという問題意識を持っていた時に、職員の1人として「ぷらっと・カフェ」に参加したことがきっかけになりました。

 「青梅まちづくり工房」は2014年の9月から、若い人にまちづくりに関わってもらうことを目的とした「若梅コース」、リタイヤした高齢者の地域参加を目的とした「福梅コース」の2コース(各7回)でスタート。特に若梅コースは、山口さんはじめ講師3人のファシリテーションにより、アイデアの作り方、地域の課題と自分の好きなことをどうつなげるか、思いを形にするにはどうするかをワークショップ形式で、1泊2日の合宿も含め考えていきました。青梅の代名詞といえる山林を活用し、自然に触れ合う機会を提供する事業など3つのアイデアが具体化する方向で進んでいます。細川さんは、「青梅まちづくり工房」の手応えを次のように感じています。「新規事業の創出ができたということだけではなく、それぞれ補助金などの助けがなくても自主運営が十分可能な企画になっています。このことは事業の継続性を保障する理由の一つになると思います」。

青梅市役所の高野剛志さん(左)と細川裕香さん(右)

青梅市役所の高野剛志さん(左)と細川裕香さん(右)

対話の場が総合計画を動かす原動力に

 青梅市の実践はまだ始まったばかりです。しかし、これまで画に描いた餅であった総合計画を実効性のあるものにしようとする、意欲的な取り組みだと思います。その成功の大きな要因には、ワールドカフェという対話の場をうまく活用したことが挙げられます。対話により生まれたアイデアと、参加者のつながりや関係性が次のアクションになり、最終的に地域にイノベーションが起きる。そうしたグッドサイクルが回り始めようとしています。

 また、山口さんというプロのファシリテーターの力を借りたことも大きいと思います。対話の場をうまく作っていくには、どうしてもスキルが必要になります。しかし、永続性を考えると、山口さんの代わりとなる人材の育成がこれからの大きな課題になると思います。別の観点から、青梅市の事例では、企画政策課と社会教育課の若手職員が、組織の縦割りを打破し、連携しながら、事業を行っていることも評価に値します。

ファシリテーションをする山口覚さん

ファシリテーションをする山口覚さん

 従来、市町村は『地方自治法』で総合計画策定が義務付けられていました。しかし、2011年の『地方自治法』改正により、策定義務が撤廃されました。これは、総合計画の作成の必要性がなくなったというものではなく、総合計画のあり方、策定方法、そのマネジメントの仕方を、市町村が自発的に考えるということだと思います。この法改正により、総合計画に対する各自治体の姿勢が問われることになりました。総合計画の実効性を高めるポイントとして、職員の間、行政と市民の間における対話の場の有無と、その場の運営の仕方が今後重要になると思います。

◇        ◇        ◇

佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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