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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第24回 日本の民主主義のピンチ、投票率向上が「地方創生」には欠かせない~戦後最低となった衆院選投票率から考える~ (2014/12/25 早大マニフェスト研究所)

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第24回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、「日本の民主主義のピンチ、投票率向上が「地方創生」には欠かせない~戦後最低となった衆院選投票率から考える~」をお届けします。

危機的な水準の投票率

 今回の衆院選の投票率(小選挙区)は、52.66%と、戦後最低だった前回2012年の59.32%から大きく6.66ポイントも下回り、戦後最低を更新しました。私の住む青森県の投票率は、全国ワースト1位の46.83%、青森以外でも投票率が50%を切る地域がたくさん出ています。

 師走の忙しさ、北日本を中心とした大雪を要因に挙げる声もありますが、それは言い訳にしかならないと思います。そもそも今回の選挙に大義があったのかということもありますが、有権者の半数しか投票に行かない危機的な水準です。人口減少問題に匹敵するぐらい、投票率の低下は大きな問題です。投票率の低迷が続けば、多様な主張が政治に反映されなくなり、少数の意見だけが過剰に政策に反映されることになります。一部の主義主張による政治が行われるようになり、政治への国民のチェック機能が働かなくなる危険性があります。日本の民主主義のピンチでもあると思います。

なぜ投票に行かないのか

 投票日の翌々日、今回初めて国政選挙での投票を経験することになった2年生のゼミ生に、なぜ投票に行かない人がいるのか考えてもらいました。ゼミ生の今回の投票率は100%でしたが、多くの友だちは投票に行っていないようです。

 まず挙がったのが、「面倒だ」という意見です。その意見には、投票所に行くのが面倒だという意味と、投票の手続きが面倒そうだという意味とが含まれているようでした。せっかくの日曜日に、それも雪が降っているし、わざわざ投票に行くのは、ということだと思います。住民票が実家にある学生が多いため、選挙のためだけに実家に帰るのも面倒くさいということもあります。

 投票の手続きが面倒そうだというのは、投票のやり方が分からないというところからきているようです。中学、高校の授業では、選挙の仕組みについては習いますが、実際に投票所はどうなっていて、どういった基準で投票すればいいかは教えられません。今回初めて投票に行ったゼミ生たちは、手続き自体は全く難しくないということが分かったようです。

 また、そもそも政治や選挙に「興味がない」という話も出ました。政治の知識が欠けていて、その結果として、政治と自分たちの生活とのつながりがイメージできないのだと思います。政治に関心があったとしても、投票したい候補者、政党がない、政治と金の問題など政治への不信、たかが1票で何も変わらないといったあきらめもありそうだといった意見も出ました。このように原因を考えていくと、取るべき対策はおのずと出てくるような気がします。

佐藤ゼミの学生からでた投票に行かない理由

佐藤ゼミの学生からでた投票に行かない理由

生活の導線の中に期日前投票所を

 短期的にできる取り組みは、有権者がわざわざ投票所に行く面倒くささを解消することだと思います。生活の動線の中に期日前投票所があれば、負担感は解消されると思います。主婦であれば、買い物に行くついでに投票が出来る。学生であれば、学校に行くついでに投票が出来る。そうした期日前投票所の環境整備が必要だと思います。

 コラムの第21回で紹介した長野県中野市選挙管理委員会では、今回の衆院選から、市内の商業施設の中に出張期日前投票所を開設しました。投票日直前の金曜日の1日だけ、15時から20時の5時間だけでしたが、店内放送で投票を呼び掛けたりして、買い物に訪れた市民326人が投票を行いました。

 また、コラムの第17回で紹介した愛媛県松山市選挙管理員会では、投票日直前の水、木、金曜日の3日間、市内の松山大学と愛媛大学に出張期日前投票所を開設して、学生の投票率アップを目指しました。期日前投票所の充実などの取り組みは、投票率アップに即効性が十分期待できるものだと思います(参考:マニフェスト大賞受賞者コラム「大学に投票所を―投票につなげる松山市選管の啓発活動」)。

中野市選管が実施した商業施設での期日前投票

中野市選管が実施した商業施設での期日前投票

主権者教育を地道に取り組む

 政治に関心、興味を持ち、選挙の重要性を意識した有権者を増やすには、子供のころからの主権者教育が重要になります。2012年12月に取りまとめられた総務省の「常時啓発事業のあり方等研究会」の最終報告書にも、新たなステージ「主権者教育」へ、と大きくうたわれています。

 その中で、その実践例の1つとして挙げられているのが学校現場での未成年模擬選挙の取り組みです。今回の衆院選に際しても、未成年模擬選挙の普及を目指す模擬選挙推進ネットワークが中心となり、全国42校が参加して(2012年の衆院選では29校)、街頭やWebでの投票も併せて、8,117人(同6,075人)の未成年者が模擬選挙に参加しました。効果が出るには時間は掛かるかもしれませんが、こうした地道な取り組みも重要です(参考:税率上がっても小遣い上がらず―未成年の関心事も消費税)。

模擬選挙の前に政策を比較する高校生

模擬選挙の前に政策を比較する高校生

投票率の向上とともに投票の質の向上を

 また、投票率の向上とともに重要なのは、投票の質の向上だと思います。2013年の参院選からネット選挙が解禁され、ネット上での候補者の政策などの情報は格段に増えています。政策を語った動画のアップも増えています。有権者はそうした情報を、投票の判断材料にすることが出来るようになりました。

 このような政策中心の選挙に向けたインフラ整備として、日本青年会議所では、公開討論会の開催のほか、選挙の立候補者の動画の公開を「eみらせん」というサイトで行ってきました。今回も、全国295の小選挙区のうち288選挙区で、撮影に協力してくれた方774人の候補者の動画をインターネット上に公開しました。こうしたインフラの整備、そして有権者自身が「賢明な有権者」になることが長期的には求められます。

投票率向上が「地方創生」には欠かせない

 今回の選挙では、安倍首相を始め自民党の候補者から、アベノミクスを地方に波及させるためにも、「地方創生」が必要だということが声高に叫ばれました。しかし、地方創生が成功するには、地方が依存から自立に意識を変え、地方から知恵やアイデアが生まれてくる仕組みと、そこから出たアイデアを実現させるための住民の参加が不可欠になります。住民の政治や行政への関心を示すバロメーターが投票率だと思います。この低投票率の状況では、地方創生もままなりません。投票率向上のため、短期的に取り組めることは、すぐに取り組み、長期的な視点で取り組まなければならないことには、腰を据えて本気で取り組む。国民全体で危機感を共有しなければならない大きな課題だと思います。

「eみらせん」のトップページ

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佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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