第107回 「新庁舎建設凍結と第二庁舎取得問題」で感じた議会の役割とは  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】

第107回 「新庁舎建設凍結と第二庁舎取得問題」で感じた議会の役割とは (2014/10/9 東京都小金井市議会議員 白井亨氏/LM推進地議連会員)

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政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。第107回は、東京都小金井市議会議員の白井亨氏による「『新庁舎建設凍結と第二庁舎取得問題』で感じた議会の役割とは」をお届けします。

◇        ◇        ◇

 2014年第3回定例会も会期半ばに差し掛かったあたりで、小金井市議会に激震が走りました。市長が唐突に「今賃借契約で庁舎として使用している第二庁舎ビルを取得する」と言い出したのです。しかも、今定例会で議決してほしいという条件付きです。全会派を集めてそれが伝えられたのは9月12日の会派代表者会議で、第1報はその2日前でした。その日から約20日間、この件に関してさまざまな動きがありましたが、併せて議会の役割とは何か、ということを考えさせられた機会でもありました。

小金井市の新庁舎建設問題これまでの経緯

 小金井市は2庁舎体制が長く続いている。もうすぐ築50年を迎える床面積約2,700平方メートルの本庁舎と、そこから100mほど離れた立地にある賃借契約の第二庁舎(築21年/床面積約6,000平方メートル)の2庁舎である。この第二庁舎は、新庁舎が建設されるまでの10年間という、当時の市長の約束で1993年度から賃借契約が始まり、紆余曲折を経ていまだ賃借契約を解消できないまま今に至ることになる。

 この間、この契約金額が割高であるとの指摘を受けながらも、賃借契約を解消できない理由としては、新庁舎建設計画が思うように進まないためであった。市のちょうど中央に位置する蛇の目工場跡地を1992年度に市は取得したものの、当時の財政面や周辺の道路事情など含め新庁舎建設に10年はかかると見越して、その間に基金を積みたてる予定であった。

 しかし、途中で武蔵小金井駅前の再開発地域に庁舎を入れる話なども持ち上がり、市は方針転換を図る。ここで市民から直接請求署名を経ての住民投票条例の提案や、1万人アンケートの実施、また新庁舎建設基本構想策定市民検討委員会なども開催され、正式に蛇の目工場跡地が新庁舎建設の場所と改めて位置づけられた。

 ようやく2013年3月には新庁舎建設基本計画市民検討委員会から答申が提出され、蛇の目工場跡地に2018年竣工の新庁舎建設スケジュールを含む基本計画が示されたのであった。今年度(2014年度)当初予算にはスケジュール通り基本設計の予算が組み込まれ、予定通りに新庁舎建設へ動き出すものとみられた。しかし5月に入り、市から最近の資材高騰・労務単価の上昇を理由に財政的な事情もあることから、今の時期が新庁舎建設に最適なのかどうかも含め見定めたい旨の発言(「凍結も視野にあらゆる方策を検討する」)があり、今後の動向が注目されていた。

使い続けるなら耐震診断が必要な築50年を迎える本庁舎

使い続けるなら耐震診断が必要な築50年を迎える本庁舎

唐突な「第二庁舎取得」提案、10日間で約18億円の買い物を議会で決めていいのか

 今回の「第二庁舎取得」の市の説明は以下の通りである。

・新庁舎建設は最近の資材高騰・労務単価上昇の折、建設費が当初予定の1.3倍にも膨れあがり、財源確保がより厳しく当初のスケジュール通りの建設は困難である。
・新庁舎建設を向こう15年以降凍結とし、代わりに第二庁舎を約18億円で購入取得する。
・財源は保証金7億円の一部と14億円を借り入れる。毎年2億2千万円程度の賃料を支払うよりは、取得したほうが償還金は1億円程度で、毎年約1億2千万円程度の財政効果が出る。
・その財政効果分を基金として積み立て、15年後に一般財源からの支出をすることなく、新庁舎が建設できる。
・9月24日までに議決してほしい。その理由は、振興協会からの借り入れ金利が、その期限内だと民間から借りるよりも1%安く借りることができる。
・第二庁舎のビルはこれまで信託契約されていたため、取得することにはならなかったが、8月18日に信託契約が解約されたため条件が整った。

 これについて、議会内では「こんな重要案件、定例会途中で出して議決しろとは市民無視だ」「チャンスなのだからいま議会が決めることが求められている」など賛否両論があった。

9月29日に議長が「取り下げ」の進言

 この問題について、当初総務企画委員会で行政報告後、補正予算の議案を予算特別委員会で審査する予定だったが全員協議会開催を求めた。さまざまな駆け引きもありながら9月17、19、22、25、26日と5日間に渡って全員協議会が開催された(17日は市からの提案説明のみ、19日も午後数時間のみ)。

 協議を始めると、各議員からいろいろな質疑が飛び交い、問題点と思われる事象が幾つか露見され、29日の全員協議会の冒頭で議長から「提案の取り下げを進言する」との発言もあった。最終的に翌30日には市長から提案撤回の発言があり、この件は一旦幕を閉じることとなった(ちなみに、振興協会からの借り入れの期限は当初の24日から29日まで延長されていた)。

どこに問題があったのか

 この件はさまざまな問題が明るみになったといえます。大きく言えば、住民自治の否定と計画的行政の破たんです。この新庁舎建設は小金井市の最上位計画である第4次基本構想、前期基本計画「小金井しあわせプラン」に具体的に記載があります。第二庁舎の賃借計画を解消する、という点は否定しませんが、まずは新庁舎建設事業が根幹なのです。それを変更すること、延伸することはままあることだと思っています。ただし、それを突如として定例会の途中で「新庁舎建設の凍結」と「第二庁舎取得」をセットで持ち出してきて、市民へ説明する間もなく決めろ、というのはあまりにもひどい提案の仕方だと思いました。

 また、これまで直接請求や1万人アンケート、基本構想と基本計画など市民を巻き込んで決めてきた新庁舎建設を15年以上も延伸することは、経緯から考えても市民への説明や意向を聴くことを飛ばして決定できることとは思えません。

 市は最近の資材高騰や労務単価の上昇を理由に財源確保が困難、と説明していますが、質疑で明らかになったことは、「そもそも予定価格の場合の一般財源すら確保できていない」という状況です。ただし、その根拠である財政見通しは一向に示すことを否定しています。それで納得がいくはずがありません。

●全員協議会で議員から指摘された、数々の論点
・“実質財政効果約18億円”にはマイナス要因が加味されていない点
・公共施設再配置の組み立ての具体性の欠如
・後年負担の試算がないこと
・市民への事後の説明
・中古の大型物件を取得するノウハウの無さと取得物件に関する調査不足
・市長の単独交渉行動
突如取得の提案がなされた賃借契約の第二庁舎

突如取得の提案がなされた賃借契約の第二庁舎

議会は役割をどう果たしたのか

 今回の問題に対して、初めは議員皆が“寝耳に水”状態であり混乱しました。特に、新庁舎を凍結するのみならず、どこの計画にも書いていない第二庁舎を購入取得するということを、長年の経過から鑑みて市民への説明は不可避である、と感じた議員は多かったと考察します。それを10日後に議決してほしいと言われたことから、とんでもないことだと私も思いました。

 そこで市民を巻き込んで、この問題を一人でも多くの市民へ知らせるべきだと考え、一致する会派間で協力してビラを作成したり、街頭宣伝をしたのです。ただ、それに関しては「議会での議論がまだなされていない段階で、ネガティブキャンペーンをするのはどうか」と市民から指摘も受けました。これについては戸惑いも多かったのですが、それこそ議決してしまった後からでは市民に説明がつかないという判断でもあったのです。今回は本当に突然の重要な問題の議決を迫られたのですから。

 ただ、そういう指摘もあって、この問題を協議する全員協議会では、市長の提案を頭から否定するのではなく、「その提案が本当に庁舎問題を解決するための最適な解なのかどうか」を審査することを念頭に、限られた時間で調査と質疑ができたような気がします。上記に書いた論点は短い期間ではありましたが、この提案について問題意識の高い約半数の議員がよく調べ、論点を数多く出せたといえるのではないか、と振り返って思います。

 29日の全員協議会には、私を含め4人の議員から独自の調査研究資料の提出の申し出がなされました。議長が冒頭で市長に進言したことで正式に提出されることはなかったのですが、いずれも上記論点のさらなる調査資料であり、対案としての提案も含まれていたと思います。

これからが議会としての役割発揮の重要な時

 議長の進言を受け市長はこの議案を撤回したものの、新庁舎建設は「凍結も視野にあらゆる方策を検討する」という段階に戻ったにすぎません。すべてが解決したわけではないのです。

 財政面は本当にやりくりできないのか、延伸は5年、10年ではできないのか、使い勝手が悪い事実が明らかになった今、他の公共施設との連動活用を含めて最適な解が見出せないのか、など小金井の庁舎問題はこれから始まったといえます。行政任せで次の提案を待つのではなく、今回の一連の出来事からすると、議会こそがこの問題に積極的に着手し、最適な解を探す取り組みが求められているのではないでしょうか。

 新庁舎の凍結を含め、基本計画から外れるようであれば市民への説明が避けられません。また財政面や後年負担も含めて、選択肢を作り市民に意向を聴いていく、という行動が必要なのだと思います。議会も行政も小金井市をより良くしていきたい、という思いは同一のはずなので、市長の提案を調査もせずに賛成だけを言うことや、市長の提案だからといって反対だけする、というのでは議会の本来の役割を果たしているとは言えません。市民のために、どう行動するか、議会が一体となることが、今小金井市議会に突きつけられているテーマだと感じています。

市民にとって期待される議会とは

 最終的には市民にとってベターな選択肢を選ぶことが求められていると思っていますが、買うか買わないかの判断、という点に頭を悩ませたのです。金額も大きく重要な市政課題だけに、審査するだけではなく、対案を出さないといけないと思っていたため、時間のなさに辟易(へきえき)しました。それ故に市民から意見も色々と聴きたかったところですが、議会としては決める時に決めないといけない、という覚悟も改めて気づかされました。

 市民にとって議会とはこういう時にはどう振る舞うべきか、どう行動すべきか、判断すべきか、などこの一連の問題で出されたテーマは数えきれません。

<市民にとっての議会、議員とは?を考える>
11月6日には、このように、市民にとっての議会とは議員とは何か、を考える勉強会が東村山で開催されます。ぜひ、似たような悩みをお持ちの方は、この勉強会に参加してください。私も運営側ですが、しっかり色んな方の話を聴き、勉強させてもらおうと思っています。

ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟★多摩勉強会
申し込みページ

著者プロフィール
白井亨氏白井亨(しらい とおる):東京都小金井市議会議員(2013年4月から現職)
会派 小金井をおもしろくする会(1人会派)所属。2013年3月24日の市議会議員選挙にて24人の定員に対して35人の乱立選挙で966票を得て20番目で滑り込み当選。どこの政党にも所属せずどの組織からも支援を受けず、素人市民でチームを作り未来の小金井市を創る為にまずは市議会議員に。
元会社員(株式会社シー・レップにて企業や学校のコミュニケーション&プロモーション企画・制作のディレクター兼営業)。関西大学社会学部卒業、一新塾30期生。1975年生まれ、大阪府枚方市出身。
HP:白井とおると小金井をおもしろくする会
Blog:もっと小金井市を、おもしろく。~白井亨blog
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