第40回 議論しない議会!? 地方議会は必要なのか?  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】

第40回 議論しない議会!? 地方議会は必要なのか? (2013/6/12 横須賀市議会議員 小林伸行/LM推進地議連会員)

政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。第40回は、横須賀市議会議員の小林伸行氏による「議論しない議会!? 地方議会は必要なのか?」をお届けします。

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横須賀市について

横須賀市議 小林伸行氏

横須賀市議 小林伸行氏

 横須賀市は、東京湾の入口にあたる神奈川県・三浦半島にあります。かつてペリーが黒船で来航した開国の地で、東京駅から電車で1時間強の衛星都市です。

 東の東京湾側は在日米海軍司令部のある横須賀ベースや自衛隊、工場などが立地し、西の相模湾側は農業・水産業も盛んなアーバン・リゾートとなっており、多彩な顔を持ちます。江戸時代末期から軍港都市として栄えてきた人口約41万人の中核市ですが、首都圏にあっても人口減少が急激に進み、苦しんでいます。

 なお、他の市町村との比較では、「地域ブランド調査2011」対象1,000市区町村中第30位、基地交付金の交付額第1位、米軍関係者の居住数第2位、日経グローカル「第1回経営革新度調査」第25位、早大マニフェスト研究所「議会改革度調査2012」第17位などとなっています。

議論しない議会!?

 今回、敢えて挑戦的な表題としました。それは、「このままでは議会不要論を突きつけられるのではないか?」という強烈な危機感が私にはあるからです。

 「議員なのに議論してないの?」と言われそうですが、多くの地方議会はあまり議員同士で議論しないことを、私もこの業界に入って初めて知りました。つまり、首長側から議案の説明を受け、議員はそれに対して「質問」はするわけです。また、質疑する中で「感想」を言ったりもします。ところが、ここから先の「議論」はしないのです。

 一方、欧米の議会の場合、質疑して議案を十分理解できたら、そこから先は首長や職員を帰して、議員同士「じゃあ、この議案をどうしようか?」と議論をする所が多いと聞きます。

議論しないなんて、もったいない。

横須賀市議 小林伸行

議論しないなんて、もったいない

 確かに、質疑する中で議案への理解は深まる。論点もはっきりする。しかし、それだけで「あとは各議員が判断してYesかNoか決めればいい」というのはどうか。人間というものは、話し合う中で、時には自分の考えが変わることもあります。まったく違う解決策に至ることもあります。言論の府として、実にもったいないと思うのです。

 もちろん、会派内では議論し合っていることでしょう。また、実は議場の外では先輩議員が熱心に議論している姿も存じ上げています。

 でも、それは市民に見えているのか? いいえ。「日本型インサイダー政治」とも言われますが、与党内(主要な会派間)の話し合いでモノゴトが決まっていくのでは、市民が「議員たちは見えない所で、コソコソ利害調整している」と不信感を抱くのも当然です。

 また、質疑だけなので「議会が首長や職員を一方的にイジメている」などという見方をする市民さえいます。確かに、質疑に熱がこもると責めているように見えなくもない。私は「議員同士で議論しない分のエネルギーが、執行部局側にぶつけられている」という面もあるのではないかと見ています。

 そして何といっても、議会は市民の代表が議論を通して「民意」をまとめ上げていく場所です。以前、審議プロセスにいわゆる「議員間討議」仕組みを埋め込んでいる会津若松市議会の目黒章三郎議長から、「カタマリとしての議会の意思を示せ」という旨の講演を聞いて膝を打ちました。議員間討議なくして「民意」の力は発揮されません。バラバラに首長と戦っても、予算編成権と執行権という強力な武器を持つ相手から個別に撃破され、相手の思うツボです。

首長に「お願い」したくない

 また、「民意」「議会の意思」を示せないとどうなるか。要するに、「お願い」です。

 予算編成の季節になると、主要会派は首長に対して予算要望を個別に出すようです。現在の地方自治制度の中で自らが望む政策を実現しようとすれば、予算要望は有効だとは思います。市民に要望内容を公開することを前提に、理解できます。しかし、「議会の意思」を示さない限り、首長側にとっては単に個々の議員・会派の願いにすぎず、採用するもしないも首長の勝手です。これでは軍門に下っているようで悔しい。

 取締役会を持つ株式会社になぞらえると、問題がはっきりします。首長を社長に、議員を取締役に見立てたとき、現在は個々の取締役が社長・執行役に対して、「こっちの事業に投資して」とお願いしている状況です。取締役ごとに言うことが違えば、社長もどっちを向いて仕事をすればいいかわかりません。経営も迷走しかねない。

 「執行と監督の分離」という観点でも、取締役は個々の執行内容に口をはさむより、事業全体を見渡して取締役会全体としての経営判断をし、社長に執行させ、それを監督するのが本来の役割のように思います。

「議会不要論」に対抗するために

 今、「議員なんて要らない」「議会なんて要らない」という声の高まりを、肌で感じます。自分たちの代表なのに、議員定数・議員報酬の削減ばかり議論される。二元代表制の議会は単なるチェック機関という捉え方もありますが、出てきた議案をチェックして議決するだけの仕事だとすれば、確かに世界一とも言われる議員報酬の水準はあまりにも高額です。もちろん、実際には多くの議員はそれ以上の仕事をしています。ただし、それが市民の目に見えないからこそ、存在意義を問われる。

 私は、「議会不要論」に対抗するカギは、議員間討議と合意形成による「民意」の提示だと思います。それができれば、議決権を持つ議会は首長に対しても強く、市民の議会批判に対しても強いはずです。質疑は執行部局がいる昼間に済ませ、議員間討議を夜間など市民が来やすい時間に行えば、市民の関心も高まり、形骸化した議会報告会などよりはるかに見応えがあるはずです。

 もちろん、現在の地方自治の制度では限界もある。それは確かです。しかし、欧米に多い「議員内閣制」などを提案するのであれば、議会にその実力があることを示さなければならないでしょう。

著者プロフィール
小林 伸行(こばやし のぶゆき):1975年生。筑波大学人文学類卒。地域情報誌社勤務の後、環境コンサルティングに携わるが、地域の疲弊と日本の将来を憂い、政治を志す。2008年、政策秘書資格試験合格。衆議院議員の長島一由氏(前逗子市長)の下で公設秘書として修行を積み、現在は横須賀市議会議員1期目。地域通貨イタッチ・プロジェクト事務局長や国際環境NGO A SEED JAPAN、特定非営利活動法人NPOサポートセンターなど市民活動にも関わる。
HP:横須賀市議会議員「小林伸行」のホームページ

小林伸行氏プロフィール

LM推進地議連の連載コラム
第39回「地方議員2.0」を目指して(横浜市会議員 鈴木太郎)
第38回「政策実現のための活動を支えてくれるマニフェスト」(岡山県倉敷市議会議員 齋藤武次郎)
第37回「今の世に 議員は何をする人ぞ」(愛知県大府市議会議員 鷹羽登久子)
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