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【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】

第32回 受け継がれる協働の絆~花巻市公共施設マネジメント計画の取り組み (2017/6/27 花巻市財務部契約管財課 公共施設計画策定室 瀬川 猛)

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「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。

はじめに

 花巻市では2015年度から公共施設計画策定室を設置し、公共施設マネジメント計画(公共施設等総合管理計画)の策定に取り組んできました。ある自治体の取り組みをヒントに、あるべき協働とは何かを気づかせてくれた本計画策定までの取り組みを紹介します。

牧之原市の衝撃

 2016年1月下旬に静岡県牧之原市の西原市長を招いて、牧之原市で実践している「対話による協働のまちづくり」についてご講演いただきました。牧之原市では、「男女協働サロン」と呼ばれる市民との「対話の場」をベースに、行政と市民が協働でまちづくりを進めており、事例の一つに公共施設マネジメントの取り組みが紹介されました。

 当初はコンサルタントに委託して、完成された計画書に市民参画を実施する。いわば行政主導で計画策定を予定していた矢先での牧之原市の衝撃。公共施設マネジメントという重要な計画を策定するうえで、本当に大事にしなければならないのは、市民の声(想い)を計画に反映することではないのか。その日から牧之原市を参考とした協働での計画づくりへと大きく舵を切ることになりました。

対話の聖地・牧之原へ

 2月、静岡県静岡市で「住みよいまちを私が創る」~対話で創る地方創生フォーラム~(静岡フォーラム)に参加します。このフォーラムを通じて、進むべき道は間違っていないことを確信するとともに、“協働”という文化が根づいていない本市で、果たして牧之原流で計画策定ができるのかと悩んでいたところ、牧之原市の人材マネジメント部会修了生(マネ友)の本間直樹さんから牧之原市の取り組みを聞くことができ、不安の中に一筋の光明を見出します。その後、牧之原市の公共施設マネジメントの中間報告会を視察し、ぼんやりと進むべき方向性が見えてきました。

“花巻スタイル”の確立に向けて

 協働での計画づくりを進めるうえで、自分自身が「対話」や“協働”といった定義をしっかりと理解する必要があると考え、2016年3月に早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会の幹事である青森中央学院大学の佐藤淳先生を招いて若手職員を中心とした研修会を開催し、「対話」の重要性や“協働”とは何かを学び、計画策定に向けて小さな一歩を踏み出しました。

 まず取り組んだのが、牧之原市の取り組みを参考とした花巻市の協働での計画づくり、通称“花巻スタイル”の確立です。4月、アドバイザーから「花巻スタイルを確立させるためには、計画策定のプロセスから市民を巻き込んで進める必要がある。行政が決めた枠のなかで市民と議論するのではなく、枠の大きさから市民と一緒に考えることが本当の“協働”である」と指摘を受けます。しかしながら、地域に人材はいるのか。どうしたら巡り会えるのか。花巻スタイル確立に向けて、人材の発掘が一つ目の課題であることが、はっきりと見えてきました。

地域に人材は必ずいる(1)

 まちづくりに関心のある人材はいるのか。2月の静岡フォーラムに市民の代表で参加したNPO法人花巻市民活動支援センターの杉山浩さんに会い、一緒に花巻スタイルを創りたいという想いを伝えました。杉山さんからは行政の本気度、覚悟なるものを問われ、腹落ちするまで何度も「対話」を重ね、花巻スタイルの確立に力を貸していただけることになりました。

私が、杉山さんをどうしてもメンバーに加えたい理由として、ファシリテーターとしての経験値に注目していました。花巻スタイルを確立するうえで重要なポイントとなる市民ファシリテーターの存在。市民ファシリテーターが数少ない本市において、市政懇談会などでファシリテーターとして活躍していた杉山さんこそが、私の追い求める理想の人材だったのです。

地域に人材は必ずいる(2)

 花巻市の公共施設マネジメント計画は、まちづくりや市民生活に直結する重要な計画であり、今後40年間の長期計画であることから、現世代と次世代の掛け渡し役となる若者をメンバーに加えたいと考えていました。数少ない人脈を頼りに計画策定に協力してくれそうな若者を探していたところ、若者の力で花巻を盛り上げる団体「HANALLE→(離れ家)」の代表である内田祐貴さんに出会い、「対話」を重ねることで、2人目のキーパーソンをチームに迎えることができました。

ワークショップでファシリテーターを務めた杉山浩さん(左)、内田祐貴さん(右)

ワークショップでファシリテーターを務めた杉山浩さん(左)、内田祐貴さん(右)

行政にも人材は必ずいる

 協働での計画づくりを進めいていくうえで、ワークショップは欠かすことのできない手法であると考えていました。しかしながら、計画策定を担当している専任の職員は私を含めても2人しかおらず、ワークショップに関する知識と経験が乏しいことから、庁内での協力者が必要でした。そこで、地域活動に積極的な職員や自己研鑽に意欲的な職員、そして、ワークショップに欠かすことのできないスキルであるファシリテーションやグラフィッカーの経験がある若手職員3名を見つけ出し、花巻スタイル確立に向けて力を貸してほしいと想いを伝え、協力を得ることができました。

 本来であれば、人事課を通してプロジェクトチームを組んで、組織的に取り組んだほうが正解だったかもしれません。しかし、あえて人事課に頼ることなく自分の足で人材を発掘していきました。私は過去の経験から「形だけのチームでは意味がない。例え非公式なチームであっても「対話」を重ねて想いを共有したチームだからこそ機能する」と感じていたからでした。

マチツク花巻!誕生

 市民と職員の協働チームにアドバイザーを加え、計画策定のキーポイントとなるワークショップのプロセスデザインを構築しました。協働チームが特にこだわったことは、この取り組みを公共施設の計画策定だけで終わらせるのではなく、「今後の計画づくりに生かすことができないか」ということ。時代が加速的に変化し、問題が多様化する社会で、行政だけで計画を進めることは困難である。そこで、本当に自分たちの未来に必要な物は何かを考える。ひとり一人が自分事として、これからの花巻を「対話」を通して考え“マチ”を“ツク”ること。私たちはこの取り組みを「マチツク花巻!」と名付け、SNSを通じて取り組みのプロセスを市民に発信していきました。

実践を通じて牧之原流の継承

 ワークショップを運営するにあたり、私たちが特に拘ったことは以下の2点です。

(1)ワークショップ企画、運営を市民と一緒にデザインする
(2)ファシリテーター、グラフィッカーは市民が担う

 しかし、本当に市民がファシリテーターやグラフィッカーを担えるだろうか。牧之原だからできるのではないか。そんな中で、アドバイザーから「第1回のワークショップに牧之原市から市民ファシリテーターと市民グラフィッカーを招聘して、実践の場を通じて牧之原流を継承してはどうか」という助言。どうしても拭い去れない不安が一気に期待へと変わっていきました。

 第1回のワークショップには、牧之原から市民ファシリテーターと市民グラフィッカー、マネ友である本間さん、青森中央学院大学の佐藤淳先生と、まさに牧之原ドリームチームが参加してくださることになり、牧之原×花巻の協働スタイルでのワークショップが開催されることになりました。

 ワークショップが始まり当市から進行のバトンを牧之原ドリームチームに引き継いでからは、圧倒的なパフォーマンスに感動する一方で、果たして次回からその役目を自分達だけで担うことができるだろうかと余韻の中で大きな不安を感じていました。

第1回のワークショップでの牧之原ドリームチーム

第1回のワークショップでの牧之原ドリームチーム

市民グラフィッカー誕生

 第2回のワークショップに向けて、どうしてもクリアしなければならない課題。それは、市民グラフィッカーの不在。ファシリテーターに比べ、まだまだ認知度の低いグラフィッカー。花巻スタイル確立に向けて、どうしてもクリアできない課題に頭を悩ませていたところ、アドバイザーから「探すのではなく、市民グラフィッカーを養成しましょう」と。そこで、第1回のワークショップの翌日、牧之原の市民グラフィッカーに講師をお願いして、市民グラフィック講座を開催しました。

 その中に、前日のワークショップに参加した市民である阿部亜紀さんが参加しており、未経験者とは思えないスキルと意欲的な姿勢で講座を受講していました。私は即座に阿部さんに無茶を承知で、「次のワークショップのグラフィッカーをやってくれないか」と想いを伝えたところ、即座に快諾してくれたのです。ついに、花巻市第1号の市民グラフィッカーが誕生した瞬間でした。

 研修で学んだ知識やスキルを実践の場につなげる。皆さんも経験があるかもしれませんが、研修当時の高い意識も日常の中で徐々に薄れていきがちです。研修で学んだスキルを実践の場で発揮する。その実践経験から様々な気づきが得られ、継続的な学びや活動につなげていく。外部の専門家や経験者を探し出すだけが選択肢ではない。人材がいないと嘆いているのではなく、自前で人材を育成する。

 公共施設マネジメントの取り組みを通じて、研修での学びをいかに実践の場につなげていくのかが大切だと改めて感じました。そして、市民グラフィッカー誕生を振り返り、研修と実践を有機的につなぐ環境こそが、ファシリテーターやグラフィッカー育成の大事な要素だとわかりました。

市民グラフィッカーの阿部亜紀さん(左から2人目)とマチツク花巻グラフィックチーム

市民グラフィッカーの阿部亜紀さん(左から2人目)とマチツク花巻グラフィックチーム

協働から参画へ

 ワークショップの運営をとおして、マチツクメンバーの成長と、HANALLE→やマネ友のサポートを得て、徐々に花巻スタイルを確立させていきました。ワークショップ後のアンケート調査でも、参加した理由を「面白そう・新しい手法だから」と答えた人が約4割いたことからも、新しい取り組みへの期待感があったことが伺えました。

 2016年12月、ワークショップで出された意見を基に花巻市公共施設マネジメント計画【基本方針編】(素案)が完成しました。当初は計画名を国の指針のとおり公共施設等総合管理計画とする予定でいましたが、ワークショップの中で、計画名が「分かりにくい」、「イメージしにくい」という意見があったことから、市民の意見を尊重して計画名を公共施設マネジメント計画に変更しました。

 その後、2017年1月から2月にかけて、パブリックコメント、市民説明会、地域の関係団体との意見交換会など多様な市民参画を実施しました。ワークショップに参加した40人の意見や想いだけではなく、多くの市民から意見や想いを述べていただく機会を創出し、より多くの市民の意見を反映させながら計画を磨き上げました。私たちは、協働から参画へのリレーにより、計画を成案にしていき、3月末に公表することができました。

 計画の基本理念として掲げられた「長期的な視点を持って常に40年先を考える」というスローガンが、ワークショップから生まれた言葉です。3つの基本方針においても、ワークショップにおける「対話」の内容が明確に反映されています。アドバイザーから「計画の策定プロセスにおいて、市民と“協働”を重視している点で、全国的にも先進的で画期的な計画策定であるといえる。」と評価いただくとともに、市民参画・協働推進委員からも「もう少し改善すればもっと高いレベルでの市民参画になる。計画案自体も拝見しましたが、すばらしい仕上がりの計画です。」と貴重な意見をいただきました。

ワークショップでの対話から生まれた「基本理念」を描いたグラフィック

ワークショップでの対話から生まれた「基本理念」を描いたグラフィック

おわりに

 2016年度から他の計画策定においても、公共施設マネジメントの取り組みを参考としたワークショップが開催されるようになり、計画策定に市民の声(想い)を反映しようという変化が起き始めています。公共施設マネジメントの取り組みが撒いた協働での計画づくりという「種」が、「芽」として出始めていることを実感しています。

 改めて振り返って見ると、牧之原流へと大きく舵をとってから計画策定まではモヤモヤや不安の連続でした。そんな中、いくつもの壁を乗り越えることができたのは、アリバイ作りではない本当の“協働”で計画を創り上げたいという強い想い。同僚や上司の協力をはじめ、職場を超えた庁内での横断的な連携。市民との「対話」により誕生したマチツクメンバーとの協働。想いを行動に起こすことで人と人とがつながり、点から線になり、線から輪に広がっていく「協働の絆」。

 今後もこの貴重な経験を生かし、“協働”と「対話」を大切に、公共施設マネジメントの着実な推進と「真の花巻スタイル」の確立を目指していきます。

岩手県花巻市 財務部契約管財課 公共施設計画策定室 主査 瀬川猛さん

岩手県花巻市 財務部契約管財課 公共施設計画策定室 主査 瀬川猛さん

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■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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